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観覧車の車軸が外れ、転がり始めた観覧車を止めたのは、巨大なサッカーボールとクレーン車だったそうだ。
クレーン車から助け出されたのは二人の女で、その内の一人は腹部に観覧車の部品が貫通していて重症、もう一人は、腕と足に銃撃を受けており、失血がひどいそうだ。

後者がひなちゃんだと分かったのは、緑川に警察病院に連れてこられた時だった。
失血は酷いが怪我自体は酷くない彼女の手術は早々に終わり、集中治療室で眠っている。



仕事に行かなきゃ、そう思って立ち上がろうとすると、今日は行かなくて大丈夫だと、隣に座る緑川に言われた。
きっと裏から手を回してくれたのだろう。
その言葉に甘えて、俺は椅子に体重を戻した。



丸一日眠っていた彼女は、集中治療室から個室に移動したあと目を覚ました。

ぴっ、ぴっ、と、聞いていて、いい気分のしない音が響いていた。
微動だにしなかったひなちゃんの息の仕方が変わった。
その様子を見て、俺は思わず息を飲んだ。
もぞりと首を動かして、こちらを見たひなちゃんの視線はふわりと定まらないが、状況は把握しているらしい。

記憶も失うようなことにはなっていないのだろう。
俺は安心して息を吐いた。

「け、んに…みどりかわ、さん」
「俺が言いたいこと、わかるよね」

俺が言葉を発する前に、緑川が呟く。
静かな病室で男の声はやけに響いた。

ひなちゃんは苦笑していた。

怒っているのだ。
死にかけた彼女に。
それは何よりも心配していたということで、そして、きっと、一度目ではないのだ。

中学の時はそもそも知り合いではなかったし、事故のあとも心のどこかにはあったが、ここまで怒るほどのものではなかっただろう。

つまり、俺が心配で気が狂いそうだったあの三日間。
この男も、同じ思いで過ごしていたのだ。

「ごめんなさい」

形だけの謝罪だ。
俺がわかったのだから、男にもわかっただろう。
何かあった時、きっとまたこの子は同じことをする。

結局その謝罪に答えずに部屋を出ていった。
ゼロに連絡を取るのかもしれない。
ということは、今現在のゼロも、ひなちゃんと面識があるのだろうか。

俺の知らないところで世界は動いている。
俺が、動けない間に、何もかも変わっていく。

「何も話してくれねぇんだよなぁ…」

思わず苦笑が零れた。
ひなちゃんは、じっと、俺を見ていた。

「降谷ちゃんに会ったよ。
俺は、七年ぶりだった」

配属は公安だろう。
警視庁か、警察庁か。
データが消えているところ見ると、潜入捜査官なのかもしれない。

「今のも、教えてくれねぇけど、アイツなんだろうな」

それは諸伏ちゃんも同じだ。
五体満足の奴全員に言えることだが、羨ましくて仕方がない。
俺は今、どうして、立ち止まっているんだ。

悔しい。
そして、苦しい。

「…今回は、たまたま体も動いたけど。
俺は常にアイツらの力になれる訳じゃない」

ぎゅう、と右手を握りしめる。
昨日はあんなに自由に動いたのに、僅かな隙間が生まれて、力を入れることすらままならない。

「くっそ…。
もう、乗り越えたと思ったのに…」

目の前にひなちゃんがいることも忘れて、左手の中で、涙を零した。



泣き止んだ後、顔を洗いに病室を出た。

「萩原」

扉を閉めた瞬間にそう声を掛けてきたのは、緑川だった。

「なんだよ、緑川サン?」
「明日、仕事の後にここに来て欲しい」

そう言って一枚のメモを寄越す。
書いてある住所はアパートだ。
米花町からはだいぶ遠い。

俺が受けとったのを見て満足したのだろう。
そのまま去っていった。



なんだって言うんだ。
チクショウ。