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一週間ほどの入院を終えて、私は退院した。
退院したその足でポアロに向かうと、店員をしていた降谷さんとソッコーで目が合った。

「いらっしゃいませ、ひなさん」

にこりと笑った彼にこんにちは、と返すと奥からマスターが手を振ってくれる。

「こんにちは、マスター」
「ひなちゃん、聞いたよ。
また入院してたんだって?」

そう聞かれて、私は苦笑で返す。

「プライバシーがなーい」

思わずそう呟くと、じゃあ心配させないで、と言われてしまった。
そう言われたらごめんなさい、と返すしかできない。

「そろそろ梓さんが来ますから、覚悟しておいた方がいいですよ」

降谷さんの言葉にうわぁ、と言葉が零れた。

「安室さん助けてください」
「僕には無理ですねぇ」

大人しく叱られてください、と、きっと今直接私を叱りたいのを堪えている彼はにっこりと笑った。
その笑顔が怖いのは絶対に気のせいではない。

彼は一度私と目が合うと、人差し指でしぃ、とジェスチャーをする。
恐らく、盗聴器が仕掛けられているのだろう。
一度自分の耳を指差してみると、彼が頷いたから、間違いないはずだ。
つまり音声では当たり障りない話しかできないということだ。
…まぁ、そもそも私と降谷さんでは、そんな踏み入った会話は発生しないけど。

「あ!ひなちゃん!」

バックヤードから表に出てきた梓ちゃんに見付かってあー、と私は呟く。
降谷さんはそんな私を見てふぅ、と小さく息を吐く。
梓ちゃんは仕事も放棄して、私のすぐ真横に立って耳元で暫く怒っていた。
時間帯的に周りには昔からの常連さんばかりで、皆してコクコクと頷くから逃げ場がない。
助けて、と言いたいが降谷さんに言ったところで助けてくれる訳が無いので甘んじてその言葉の羅列を聞いている。
はい、ごめんなさい、すみません、を暫く繰り返していると、梓さんは気が済んだのか、気を付けてくださいね、と話を纏めた。

「心配してくれてありがとう」

そう返すと、そういうとこですよ、と怒られた。
理不尽だ。