3
十三日の金曜日。
各地のライトアップが始まっているその時期、私は最初、ポアロに行こうかどうしようか悩んだ。
今日、あのお店は事件が起きる可能性が高い。
西の名探偵とゼロに所属した経験のある執事が居るはずだ。
どちらにもまだ顔を合わせたことはなくて、私は悩む。
いつもなら絶対に行かない、と判断するのだが、今回の事件では人は死なない。
なら、ちょっと会いたいなぁ、なんて思うミーハーな心があっても仕方がないと思うんだよね。
という言い訳を全力で心の中でつらつらと思っている間に私は既にポアロにいた。
勝手に足が向く程度には心は既に決まっていた。
既に予想通りのメンバーが揃っていたポアロのカウンターに座らせてもらって、カフェオレだけ頼む。
途中目が合ったコナン君に手だけは振った。
いつもなら夕飯も頼むが、きっとそれどころではなくなる。
「今日はご飯いいんですか?」
こて、と首を傾げた梓ちゃんに頷く。
「お昼遅かったから、もう少ししたら頼もっかな」
そう言うと、わかりました、と彼女はにっこりと笑った。
カフェオレを頂きながらいつも通り歓談していると、大学生たちにコンセントを使っていいか声をかけられる。
あぁ、この時が来てしまった。
「…ひなさん?
どうしました、体調悪いですか?」
心臓あたりの服を掴んでいると、不意に降谷さんに言われて、私は頭を振った。
あの、と口篭ると彼は傍に寄ってきた。
その時ちょうど、梓ちゃんがどうぞ、と延長コードをお客さんに渡す。
申し訳ないと思いつつ、絶妙にテーブル席に近い私のアリバイ作りに利用させてもらおう。
そもそも接点もあまりないから疑われることは無いだろうけど、念には念を、だ。
ぎゅっと彼の袖を掴んだ。
途端、唐突に照明が落ちた。
ざわ、とした店内で、傍にいた降谷さんが梓ちゃんにブレーカーを上げるように指示をする。
頷いた梓ちゃんがスマホのライトでブレーカーを見ていると、男性の叫び声が響く。
思わず手の力が強くなると、彼は私の手を一度ギュッと握った。
「梓さん、はやく!」
ぱっと明かりがついたとき、降谷さんの手は離れていた。
温もりの残る手が少し寂しいが、本来その温もりは私が感じることがないものだ。
ふと見上げると、降谷さんの視線は私の背後にあって、思わず振り返ろうとした私の動きを肩を押さえて止めた。
「人が倒れています。
ひなさんは、振り返らないでください」
そう言われて、私は頷いた。
時折過多だとは思うが、この人はこの人なりに私を守ろうとしてくれているのがわかっている。
コナン君と平次くん、そして降谷さんの三人で警察と共に捜査をしていく。
被害者が救急車で運ばれて行ったあと、私は漸く降谷さんから振り返る許可が降りた。
まだあたりには血が広がっているが、確かにここに人が倒れていたら青ざめる所の話ではないだろう。
「あのよー、刑事さん。
俺らばっか疑ってるけど」
「外部犯ってことはないんですか?」
「カウンターの、去年までここで働いてただろ?
去年通ってた時に、何かあって恨んでたとか…」
「え」
やはりというか、槍玉に挙げられて私はビクリと肩を揺らした。
「彼女には無理ですね」
そう言った降谷さんに、それぞれ反応が返ってくる。
「あの、私、停電にびっくりして、近くにいた安室さんの袖掴んじゃってて…」
実際は停電する前から掴んでいたが、それをわざわざ言う必要も無いだろう。
どうしよ、梓ちゃんとコナン君がめっちゃ見てくる。
梓ちゃんは先日の会話から来るものだろうけど、
もしかしてコナン君にも恋人だと疑われているのだろうか。
恐らくコナン君は、諸伏さん扮する緑川さんとも工藤家の時以来会っていないし、私の中学時代の事故の詳細も知らないし、当然研にぃという存在とその同期、なんて接点は知らない、筈だ。
一度話したい気もするが、話したら首を絞めそうで怖いので却下だ。
自分のことは自分が一番わかってる。
「という訳で、僕とひなさんはここから動いていないので無理です」
言い切ってくれた降谷さんの言葉に頷いた。
その後、伊織さんと三人の探偵は無事事件を解決させた。
刺した相手が、恋人の腹違いの姉弟、という物語を見てた時はまさか、な結末も、無事彼の生存が確定しひと段落となった。
ポアロの片付けを手伝ったあと、閉店作業をしている梓ちゃんに声をかけられる。
「ひなちゃん、安室さん。
よければこのあと、食事に行きませんか?」
賄いも食べ損なっちゃったし、と続ける梓ちゃん。
さすがにお腹も空いたし、私は悩まずにOKを出した。
すると降谷さんも是非、と頷いた。
まさか降谷さんもOKだと思わなくて目を見開く。
あぁ、でも改めて考えると、結構降谷さんって梓ちゃんと出かけてるんだよねぇ、と納得した。
時間も遅かったので、ファミレスに向かった。
ポアロのご飯から考えたらグレードダウンもいいところだが、今日はコンビニかな、なんて覚悟していた私からすればファミレスで、梓ちゃんそして降谷さんも一緒の食事というのはご褒美以外の何物でもない。
平次君ともゆるっと挨拶できたし、いい一日だ。
本当にそう思っていた。