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ポアロでの事件から一週間後の土曜日。
私は諸伏さんと夕食の約束をしていた。
午後三時、待ち合わせ場所に向かうと、諸伏さんと一緒に研にぃが立っていた。

Uターンして逃げていいですか。

そう思いつつ諸伏さんの顔を見ると、パッと見はパリピオーラで楽しそうに会話してる。
…イヤ、もうこれ普通に楽しんでないか?

本人がいいならいいか、と少し棚上げして二人に近寄る。
多分、この棚上げも宜しくなかった。

「こんにちは、緑川さん。
研にぃなんでいるの?」
「えー、そんな言い方するー?」

こて、と首を傾げるのはいつものことだ。

「緑川さんいたから声掛けたらひなちゃん来るって言うから、一緒に夕飯でも行こうかなって!」
「…三人で?」

確かに研にぃには付き合うつもりは無いと言っているけど、一応妙齢の二人が休日を使って食事に来ているんだが?

「緑川さんはいいって」

じと、と彼に視線を送ると、肩を竦めて肯定を示す。

「緑川さんがいいなら、いいけど…」

いいけど、会話がしづらい。
緑川さんと呼んでいるけど、会話はいつも諸伏さんとのものだった。
改めて話すこととか、正直無い。
そう思っていると、私をほっぽって緑川さんと歩き始める研にぃ。

「ちょっと、待ってよ!」

ちょっと、長いコンパス持ってるんだから置いてかないで…!

オススメのお店があるから、と言われて着いていく道のりがどんどん見覚えのあるものになっていく。
店に近付く度に、表面上はのらりくらりとしている諸伏さんの挙動が怪しくなっていく。

「研にぃ、あの」

お店のことを聞こうと思って口を開くと、目の前に現れた松田さん。
パンツのポケットに片手を入れてたばこをふかしている。

「よ、ハギ、ひな」
「ま、松田さん…」
「やっほー、陣平ちゃん!
あ、緑川さん、俺の幼馴染の松田陣平!
一緒でもいいよな!」

いや、もう、それ質問してない。
そんなことを思いつつ、最早私たちに決定権はないのだから諦めるしかないのだ。
大人しく、降谷さんに怒られよう。
ちらりと目を合わせた諸伏さんと頷いた。

四人で連れ立った行先は、予想通りポアロだった。
生贄と言わんばかりに私を一番前に置いて、四人で入店する。
いつもと変わらない音が鳴るベルが虚しい。

カウンターの向こうに降谷さんがイイ笑顔で立っていた。
いや、いつも通りの安室さんの笑顔なんだけど。
余計怖い、とか言っちゃいけないのだろう。
だが、その恐怖は一瞬で消えて、私は驚いて目を見張った。

「だ、伊達さん?」

奥のテーブル席に陣取っている伊達さん。
どうやら私たちが来るのがわかっていたようで、よう、と片手を挙げている。

「班長!」

研にぃと松田さんが私を追い抜かして店内へ入っていく。
その背中を見送る私と諸伏さんは、もはや状況についていけない。

「先週、梓さんと三人で食事に行ったところを見つかったみたいです」

カウンターから出てきた降谷さんに、あくまで安室さんの口調でネタバラシをされる。
諦めたような笑顔は、少し嬉しそうだ。
自分だけの失態じゃなくて良かったって安心したのは許して欲しい。

「皆さん同じテーブルでいいですか?」

そう聞かれて、頷いていいのか、わからなかった。
判断を仰ぐように、降谷さんを見て、次に諸伏さんを見る。
ふたりとも穏やかに笑っているから、私は思いきり大きな声で答えた。

「もちろん!」

降谷さんの問いに頷いて、研にぃの横に座る。
諸伏さんと伊達さんが向かい、松田さんは研にぃの向こうだ。

「定員さーん、ビールー」
「あはは、やだなぁ、ここは喫茶店ですよ?」

松田さんのオーダーに口調は柔らかいが、怒ってるのがわかる。
いつか二人のスパーリングとか見れたりするだろうか。
欲張りすぎるかな、でも、どうしよう。
涙が溢れてきた。
せっかくちゃんとお化粧してきたのに、崩れてしまう。

まだ、安室さんと緑川さんだけど。
まだ、物語は終わってないけれど。

これが幸せじゃないなら、一体何を幸せと言うんだろう。

「ひなさんはいつも通り、カフェラテでいいですか?」
「はい」

降谷さんの問いに再び頷いて、今この幸せを、私は享受した。