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ヒロとも風見とも連絡が取れなくなって数日。
コナン君がひなさんの見舞いに行ったと聞いて、僕はひなさんがあの日東都水族館の傍にいたことを知った。
怪我の程度は分からないが、入院するということは水族館というより観覧車のそばに居たのだろう。
萩原が居たのはそういう事か、と経緯まではわからないが状況だけは把握した。

どうやら明日退院するらしく、そのままポアロに来るそうだ。
連絡は来ていないが、恐らくヒロからUSBを預かっているのだろう。

こちらも用意しておくか、と今日のやることリストを更新した。






翌日、昼頃に彼女は来た。
怪我の様子は聞けていないので、どんな大怪我をしたのかと思ったが、わかりやすい外傷は服の上からは見当たらなかった。

「いらっしゃいませ、ひなさん」
「こんにちは」

奥にいたマスターがひなちゃん、と声をかけると、彼女も嬉しそうな挨拶を返した。

「こんにちは、マスター」
「また入院してたんだって?」

マスターに第一声で聞かれて、ひなさんは苦笑する。

「プライバシーがなーい」
「じゃあ心配させないで」

僕が知ってるだけで、三度目の入院だ。
知らない分と、入院していない分の怪我を含めたらどれだけ増えることか。

「ごめんなさい」
「そろそろ梓さんが来ますから、覚悟しておいた方がいいですよ」
「うわぁ」

そう言った彼女に、そろそろ休憩が終わって帰ってくる梓さんの存在を告げると、彼女は呻きながら頭を抱えた。

「安室さん助けてください」
「僕には無理ですねぇ。
大人しく叱られてください」

にっこりと笑うと、彼女は僕の思いを察したのだろう。
ぐっと言葉を飲み込んだ。

恐らくヒロや萩原にも既に怒られているだろうが、僕の知ったことでは無い。
本当なら僕からもしっかりと叱りつけたいのだ。
悪いことをしてる訳では無いとわかっているし、当然トラックの時のように、巻き込まれた時もあっただろう。
それでも、危険に飛び込んでしまうのは、本人の意識が変わらないとどうしようない。

彼女が言葉を飲み込んだところで、しぃ、と人差し指を口元に持っていく。
大きな目をきょとん、とさせた彼女は自分の耳を指さして首を傾げる。
やはり、彼女はどこか察しがいい。
頷くと、彼女も同じように頷いた。

ポアロにいる限り、彼女と親密な会話が生まれることは無いが、念には念を、だ。
人はいつどんなことに巻き込まれるか、どんな事態に陥るかわからない。

そんな無言の会話を終えたところで、バックヤードから物音が聞こえる。

「あ!ひなちゃん!」
「あー」

表に出てきた梓さんに見付かって、ひなさんが呟く。
彼女が既に耳にタコなのは想像が着くが、いくら言われても変わらないのだから仕方がない。
僕は小さく息を吐いた。

梓さんは真っ先にひなさんの真横に立って、耳元で暫く叱りつけていた。
その構図だけ見ているとどちらが年上かわかったものではない。

時間帯的に周りには昔からの常連さんばかりで、皆してコクコクと頷いている。
もちろんその中にはマスターや僕も含まれているので、そのお叱りを止める人間は居なかった。

はい、ごめんなさい、すみません。
ひなさんも分かっているのだろう、相槌はその三つに限定されている。

「もう、ほんっとーに、気を付けてくださいね!」

十分程度だったが、梓さんのお叱りが終わって、ひなさんは息を吐いた。
僕にはまだ数十分叱りたい案件があるが、恐らくヒロや萩原から既に聞いているだろうから割愛する。
残念だ。

傍を離れようとする梓さんに、梓ちゃん、と声をかける。
にっこりと笑う彼女が、

「心配してくれてありがとう」

そう言うと、頬を紅潮させた梓さんがもー、と呟く。

「そういうとこですよ!」

微笑ましいじゃれ合いに、店にいる全員が頬を綻ばした。