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サミット会場の映像が流れることが増えた。
ということは、そろそろ「ゼロの執行人」が始まるということだ。

今回の事件は首を突っ込めないな、と思う。
いや、今までも敢えて首を突っ込みたい訳ではなかったんだけど。
降谷さん達の周りを彷徨く訳には行かないし、蘭ちゃん達の周りも同様だ。

事件が終わるまでは、今日でポアロも行き納めにしておこうか、と店内に入ると、研にぃがカウンターに座っている。
珍しくノートパソコンを前にしていて、どうしたんだろ、と首を傾げる。

「お、ひなちゃん。
やっほー」
「やっほ。
またポアロ通い始めたんだね?」

研にぃ達は、私がポアロに務めていた時はよく来ていたが、なんやかんや辞めたあとは来ていなかったようだ。
前に全員が揃ったあとは、それぞれタイミングは異なるが来るようになったみたいだけど。

流れるようにパタンとノートパソコンを閉じる彼はコーヒーカップを持って笑う。

「おぅ!
やっぱり梓ちゃん可愛いし。
コーヒーも上手いしな」

そう言う割に、今目の前にいるのは降谷さんですけどね。
っていうか梓ちゃん多分、今日休みだし。

「安室さん、ミルクティーホットでお願いします」
「かしこまりました」

降谷さんが紅茶を入れてくれている間に、研にぃの傍による。

「横、いい?」
「モチのロン」

ノートパソコンをカバンにしまう様子を見ながら呟く。

「珍しいよね、研にぃがノート持ってるの。
お仕事は外じゃ出来ないんじゃないの?」

彼の仕事柄、在宅も無さそうだと思っていたが違うのだろうか。
否、事件に関わらない総務の仕事だとまた別なのかな?
そんなことを思ってると、研にぃがそれがさ、と笑う。

「今ハマってるネット小説があってさー。
ひなちゃんも読んでみる?」
「私恋愛小説以外興味ないよ」
「えー、ミステリーも面白いよ?
さっき安室さんにも勧めててさ」

ふぅん、と呟く。
何をしてるのかは分からないけど、私には言えないのだろう。
それに、ミステリー小説は私には難しすぎるのだ。
この世界で生きるのだって難儀してるのに、なんて誰にも言えない本音は当然隠したまま。

チラリとキッチンを見ると、ケーキサーブ用の冷蔵庫がある。
物語はしっかりと進んでいるなぁ、と私が務めていた頃には無かった機械を眺める。

「あ、安室さん、ショートケーキまだありますか?」

この後発生するテロまでの時間を把握したいなぁ、なんて思いながら聞いてみると、彼はにっと笑う。

「ひなさん、実はショートケーキを改良したんですよ」
「え!」

もう変わっていたのか。
やっぱり事件が終わるまでは来れないなぁ、と決意を固める。

「是非食べてください」

その新しくなったケーキを盛り付けて持ってきた彼は満面の笑みだ。
このケーキが改良された経緯は当然知っている。

イヤ、ほんとこの人自分の仕事分かってるのかな。
公安じゃなくて店員やったらいかがだろうか。
顔面とセットにしたら一気に人気になるよ、と心中思う。
多分降谷さんに言ったら渋い顔されるだろうけど。

「いただきます!
美味しそう〜!」

程よい生クリームの甘みと酸味、柔らかいスポンジに舌鼓を打つ。

「ん〜!」

想像の時点で美味しかったが、実物は百倍美味しい。
横にいる研にぃの肩をバンバンと叩くと研にぃも降谷さんも嬉しそうに笑った。

「美味しい?」
「も、めちゃくちゃ!
すっごい美味しいです!」
「喜んでもらえたようでよかったです。
ひなさんは、甘すぎないケーキの方がお好きですよね」
「そうなんです。
ちょっと甘すぎるとしんどくて…」

頬を掻きながら苦笑する。

「でも、これはもうペロリですね!
リピーターになっちゃいそう」
「是非、いつでも食べに来てくださいね」
「はい!」



三人で話していると時間は一瞬で、閉店時間を迎えた。
夜は研にぃに送って貰うことになった。
降谷さんや諸伏さんが車で送ってくれて、その中で会話してるのも楽しいけど、研にぃと歩いて帰るゆったりとした時間も私は好きだ。

「なぁひなちゃん」
「んー?」
「君は、なにをしてるんだ?」

唐突に真剣な声音で聞かれて、私はひとつ深呼吸をした。
降谷さんと諸伏さんと関わりがある事、だろう。
当たり前だ。
研にぃを始めとする三人の中で、私と諸伏さんは中学の事故のあと、再会して接点があるが、降谷さんとはないのだから。
何かがあると思って当然だろう。

「なにを、かぁ…。
なにしてるんだろーね」

あはは、と笑う。
大好きだった降谷さんを、ひとりぼっちにしたくなかった。
私のやりたかったことは、去年伊達さんを助けたことで終わっていたのだ。
終わったから、みんなの傍を去るつもりでいた。

でも、その目的の中で諸伏さんの協力者になった。
正直、私の「協力」が何処まで彼らの役に立ってるのかが分からない。
諸伏さんが緑川さんとして動ける今、私は協力者として成り立っていないと思うのだ。
諸伏さんに聞いてみたこともあるが、なぁなぁで流されてしまった。
安室と緑川という顔を得た今も、降谷さんと諸伏さんは、積極的には会わない。

「ひなちゃん?」
「ふふ、私が一番聞きたいの。
たぶん、何も出来てないのに、私は何してるんだろうねぇ 」

今のところ私が狙われるような事件は発生していないが、もし今後そんなことが起きたら、足手まといでしかないのに。

「もし、研にぃが二人に連絡取れるなら伝えてよ。
私は使い物にならないって」
「おにーさんはね、ひなちゃんには安全なとこにいてほしいんだよ」

そう呟いた彼に続きを促せば、にっと口角を上げてでもさ、と続ける。

「ひなちゃんと離れることは、考えてねぇんだよなぁ」
「…なにそれ」

今研にぃが何を始めたのかは知らないけど、絶対にその二つは同時に成し得ないと思う。
研にぃは私の左手を取って、その小指にあるリングを撫でる。

「だから、ひなちゃんは守られててくれよな」

このリングの意味を知ったらしい。
そう言った情報共有をする立場になったのだろう。

「…私は、守られる手間をかけるくらいなら離れていたいよ」
「ムリだって。
俺たちがどんな人間か、もうわかってるだろ?」

ぱち、とウィンクをする研にぃにため息を着く。
無理に離れる手立ても、きっとある。
でも、それが出来ないのだから私は、自分自身に対しても、この人達に対しても、甘いのだろう。