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翌日、私は予定通りポアロに足を運んだ。
もう怪我は諦めた。
どうせ怒られるのだから、堂々と行こう。
幸い今回は、IoTテロという言い訳も成り立つし、と、いつもよりかは武装も準備できていた。

「こんにちはー」

声を掛けながら店に入ると、カラカラとお盆を落とした音が響いた。

「っ、ひなちゃんーーー!?」

続いて聞こえたのは梓ちゃんの叫び声だ。
予想はしてたが、予想を超える反応に苦笑しかない。
降谷さんも口をあんぐりと開けている。
ちょっとレアな顔だ、とこっそり嬉しくなったのは秘密だ。
バレたら多分怒られる。

「ど、どうしたんですか!」
「昨日のIoTテロでね」

と、電話の下りを説明する。

「鼓膜破れちゃってて、こっち側よく聞こえないから左側で話してくれると嬉しいかも」
「もー、もーー!」

右からパタパタと左側に移動する梓ちゃん。

「ほんっとうに!
いい加減にしてください!」

そして怒られた。
解せぬ。

「テロは私じゃどうしようもないよ」
「そうですけどォ…」

むぅ、と口を尖らせる。

「怪我はひどいんですか?」

正面に立ってはっきりと喋ってくれる降谷さんにいえ、と答える。

「火傷は水膨れできちゃったくらいで、そんな大怪我ではないんです。
鼓膜も自然治癒できる範囲らしいので」

私よりも絶対に、あなたの方が大怪我です。
そう思うが、私が知っているはずもない事実なのでそれは直接は伝えられない。

そう言うと、二人とも納得してない顔で納得した。

「二人は?
テロ、大丈夫でした?」

聞くと、梓ちゃんは家にあった家電がいくつか壊れた話をしてくれた。
降谷さんは何も無かったと笑っている。

夕方になってから、私は早めに店を出た。
残念ながらお風呂に入るのが難儀するのだ。
ドライヤーも耳が痛くなるし。

丁度同じタイミングで、毛利家に差し入れに行くという彼に誘われて、上の階に顔を出す。

「こんばんは、差し入れお持ちしました!」

にぱっと笑う安室さんバリバリな降谷さん。
その横からこっそり顔を出すと、蘭ちゃんの叫び声が聞こえた。

「ひなちゃん!?
その怪我どうしたの!」
「いや、私の怪我の前に小五郎さん大丈夫です?」

大きなたんこぶと、周りにある鍋とおそらく中に入っていた具材が散らばっている。

「この人のことはいいのよ!
IoTテロ?」

英理さんの問いに頷く。

「電話してた時に、ばんって」
「もー可愛い顔が台無しじゃない!」
「そんなこと言ってくれるの皆さんだけですよ」
「ひなさん、お祓い行った方がいいんじゃない?」

コナン君に言われてえぇ、と呟く。
私よりも君の方が言った方がいいよ、というのは心に留めることに成功した。

「ニュースで見てたんですけど、皆さん元気そうで安心しました」

そう言うと、家族は顔を見合せて笑った。
本当に、素敵な家族だなぁ、と心がホッコリする。
お邪魔にならない内に降谷さんとお暇して、階段を降りる彼の背を追う。
降谷さんはポアロの仕事に戻るようだ。

二人で階段を降りて、降りたところでお別れだな、と思っていると、階段を降りきる少し前に降谷さんはくるりと振り返った。
そこに居られると、私降りれないけど。
そんなことを思っていると、彼が左腕を上げて私の右頬に触れる。
ガーゼ越しで、その温もりはよくわからない。

っていうか、その腕は、怪我をしている方じゃないですか?

そう思うが、彼の表情は変わらない。
痛みの中で動くことに慣れているのだろう。
そんなこと、慣れないで欲しいのに。

「すみません」

そして、何故か謝られる。

「貴方のせいじゃないですよ」

あの検事が悪事を働く原因が公安にあったとしても、こんな大事にしたのはあの検事の責任だ。
降谷さんの責任ではない。

私はそんなことを知っているはずがないから、降谷さんはきっともっと軽い意味で捉えているだろうけど。

「それでも、」
「昨日は、大変だったと聞きました。
いつも…、ありがとうございます」

何が、とは言わない。
でも彼は少し眉尻を下げただけだ。

「僕は、仕事ですから」
「いつも、私が遺体を見ないように、とか…他にも、助けてくれるでしょう?
貴方のおかげで、私はこうして笑ってられるんです」

彼の左肩に、傷に響かないように触れる。
そうすると、彼は目を見張った。

「いつも、ありがとう」

降谷さん。
音にしないで、彼の名前を呟く。
そうすると、彼は泣きそうな顔で、どういたしまして、と笑った。