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サミット会場の視察を、資料を確認しながら行っている。
本来なら昨日の内に資料は確認したかったのだが、組織の任務が入ってしまい叶わなかった。
施設の中で、オンラインで管理できるというガス栓が気になり僕が他の公安に連絡を取ろうとした矢先だった。
爆発が起こる。
くそ、と吐き捨てるのももう遅い。
サミット会場は火の海と化していた。
ヒロに頼み、毛利小五郎を巻き込むことにした。
萩原を横に付けながら作業をしていたようだが、集中力はさすがのものだったらしい。
下手に練習させるより、こうして現場を踏ませた方が早いかもしれない、と思ったのは、今は横に置いておくことにした。
事件の最中、梓さんと買い出しに行くことになった。
いつも通りなのに、いつも通りでない空気はどこかやりづらい。
勿論それを梓さんに気取られるようなことはしないが。
「梓さんはいいお嫁さんになりそうですね」
そんな、いつも言うような軽口を言うと、梓さんは指を一本立ててしっと息を吐いて近寄ってきた。
「軽はずみな言動は避けて!」
「え?」
ギンと目を釣り上げて周りを見渡しつつガンガン話し始めた。
「安室さんはウチの常連のJKに大人気で!
この前も私が言い寄ってるってネットで大炎上だったんだから!
ほら!
ひなちゃんの話題も上がってたし!」
「え、ひなさんもですか?」
不意にひなさんの名前も出てきて僕は聞き返した。
何言ってんのこの人、とでも言うような目で見てきた梓さんが手をわなわなと震わせる。
「当たり前です!
ひなちゃん、普通のお客さんの中でも元店員ってことで話題に上がりやすいし!」
主に常連の面々から話題にされているのは知っていたが、まさか僕目当ての客の中でも話題に上がっているとは。
彼女との接し方も気をつけないとな、と心に刻む。
「そうだったんですね…。
そのサイト、教えてもらってもいいですか?」
「構いませんけど」
彼女がURLを送ってくれたのを眺めつつ微笑む。
それすらも非難を受けていそうな目で見てくるが気をつけますね、と伝えると諦めたのか溜め息を吐いた。
「よろしくお願いします!
今の時代どこで誰が聞き耳を立ててるか分からないんですからね!」
梓さんの捨て台詞は、今まさに自分が仕掛けている事だった。
コナン君のスマホに盗聴アプリを入れていることは流石に口外できないが、耳が痛い。
「…ですね」
早々に事件を片付けて、アプリも消さなくては。
そう、思いを新たにした。
その日の夜、ヒロと連絡を取った。
今回の事件、ヒロはあまり動けることがない。
これだけ公安が出張っていれば、知り合いに会う確率も上がるというものだ。
「悪い、今どれくらい手空いてる?」
「今ならそこそこ空けられるけど」
予想通り、今なら頼めそうだ。
通話とは別にURLを送れば、なんのサイト、と聞かれる。
「ポアロの噂話が書き込まれてるらしいんだが、ベガの話題も上がっているらしい。
個人情報や不都合な情報が上がってたら削除してくれ」
成程、と頷いたがヒロの声が真剣になった。
と思えば、何か閃いたのか、そうだ、と声色が明るくなる。
「いっそ練習用にするか。
ベガのことならあいつも集中してくれるだろうし」
「確かに」
神様が関わってくるなら、萩原も普段とは違う集中を見せるだろう。
萩原の成長に期待できそうだ。
他にも何件か確認をとってから、通話を終了させた。
組織の仕事が入ってこないのは不幸中の幸いだ。
最後まで公安の仕事に集中できることを祈りながら、僕はノートパソコンを開いた。
毛利小五郎の案件が進む中で、風見がコナン君に盗聴を受けていた。
子供が盗聴器を付けると考えることも頭に入れておかなければならない。
日本ではあまりないが、外国に出ようものなら子供は平気で悪事を行う。
そして、前々から何かが違うと思っていたこの少年は、やはり普通の子供とは違うのだと再確認した。
IoTテロが起きたことと、コナン君が得た情報で、事件の全貌が見えた。
羽場二三一の対応をしつつ、僕は隙を見てヒロに電話を掛けた。
すぐに出たヒロの言葉を待たず、僕は問う。
「今どこにいる?」
「あぁ、今ベガが怪我したから病院行ってて…」
帰ってきたヒロの言葉に目を見張る。
まさか、IoTテロだろうか。
「ベガが?
大丈夫なのか?」
「うん、命に別状はないよ」
「そうか」
ひとまずの無事を聞いて僕は息をついた。
ヒロかそばに居るなら危険はないだろう。
「警視庁付近に、カプセルが落下する。
近くにいるなら、カジノタワーに避難誘導かけてるから、回ってほしい」
「OK」
端的に通話を終えて、僕はコナン君と犯人捕獲に向けて動き出した。
カプセルの新たな落下予想地点はカジノタワー。
そう判明してから、僕は舌打ちしたいのを全力で堪えた。
実際に、ヒロがひなさんを連れてカジノタワーに避難したのかがわからなかったため、車に向かうまでにスマホを操作して指輪のGPSを辿る。
GPSの示す場所は…。
あぁ、くそ。
少し前の自分を殴り飛ばしてやりたい。
そんな思いを隠して、僕はコナン君の指示で車を走らせた。
建設中のビルにあった、荷台用エレベーターで上層階へと向かう。
やろうとしていることは僕もコナン君も死と隣り合わせだが、コナン君に躊躇いはないように思う。
幼さ故か…。
出会った当初ならそう思っていただろうが、この少年の言動が見た目とそぐわないのは既に知っている。
「愛の力は偉大だな」
そう言うと、彼は一瞬気の抜けた顔をした。
直ぐに真面目な表情になって、スマホの操作を再開させる集中力は中々のものだ。
「…安室さんって彼女いないの?」
不意にそう聞かれて、僕は目を見張る。
返事をする前にコナン君がひなさんは、と続けて聞いてきたので、僕はふっと息を吐いた。
コナン君は、萩原やヒロといる時の彼女を知らない。
僕と居るときよりもナチュラルに、楽しそうに笑う彼女を、知らない。
そして、そんな彼女が僕たちの“神様”だということも。
「彼女は違うよ。
僕たちと同列で考えてはいけないひとだ」
僕の言葉が理解できなかったのだろう。
顔面いっぱいに疑問符を浮かべたコナン君が首を傾げる。
だが、こんなお喋りの時間もお終いだ。
「僕の恋人は、この国さ」
神様が生きるこの国を、命を賭して守り抜く。
そう、決めている。