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バク、バク、と心臓の鳴る音が聞こえる。
一緒に変な汗も出てくるようだ。
痛みをこらえるために俯くと、服が赤く滲んでいくのが見えた。
ぎゅう、と目を瞑って歯を食いしばる。

私は、間違えたのだろうか。
ここで死ぬのだろうか。

ごめんね。
名前を出して。
蘭ちゃんに危険がなければいい。

諸伏さんにも、研にぃ、松田さんと伊達さん達にも、火の粉は降り掛かっていないかな。

降谷さんに、迷惑をかけていないかな。



会いたかったな…。
これが最期なら、貴方に。



呟くことは出来なかった。
この部屋に何があるかわからないから、音には出来ない。
でも、もしもこれが最期なら、あなたの名前を呼びたかった。
ほんとうに、欲張りになったものだ。

手放しそうになる意識を僅かでも引き留めようと悪足掻きをしていく中で、扉が開く音が聞こえた。

瞳を開けて見ると、扉のところに安室さん…と言うよりも、バーボンの身なりで立っている彼がいる。
表情も見たことがないくらい冷たくて私は息を飲んだ。

落ち着け。
私はバーボンを知らない。
安室さんしか知らない。

自分に言い聞かせて、彼のアクションを待つ。

「ここにいた人はどこへ?」

冷たい視線のまま、私を見下ろしている彼に真っ先に聞かれたのは、ベルモットの行方だ。

「少し、前に…部屋を出ました」
「…そうですか」

私の傍に来た彼は跪いて手錠を外す。
少し時間が掛かったような気もしたが、恐らく私が壊した指輪の破片を拾っているのだろう。
ベルモットが戻ってくる可能性があるのに発信機を残していく訳には行かない。

手錠から外れたあと、彼は私のニットを脱がせて撃たれた肩に当てて圧迫する。
痛みに呻いたが、彼は相変わらず冷ややかな目をしていた。
降谷さんのはずなのに、その態度はあまりにも冷たかった。
本当にこの人は私の知ってる降谷さんなのだろうか、なんて疑いたくなる。

一際強く圧迫したあと、彼は私の手をニットへ誘導させた。
抑えろと言いたいのだろう。
大人しくその誘導に従うと、彼は自分が羽織っていた上着を傷口を隠すように私の肩にかけた。
そんな私を横抱きにして、部屋を出る。
向かった先は駐車場で、白のRX-7の助手席の背もたれを倒して横たわらせてくれた。

暫く機器をいじっていたかと思うと、彼は私の服の中に手を伸ばして胸元をまさぐる。
何かと思っていると、ブラの中から何かを取って手を抜いた。

「随分悪趣味な場所に隠しますね、ベルモット?」

そう言った彼は、パキ、と音を立てて何かを壊した。
どうやら盗聴器を隠されていたらしい。
もう一度機器を操作した彼は、確認を終えてから車を発車させた。

「銃で撃たれてる。
見た限り一箇所だ」

唐突に言った降谷さんの言葉は、どうやらイヤホンで通じている電話の向こうの相手への言葉らしい。

「あぁ」

そう頷いたあと、彼は少し息を吸ってからまた呟いた。

「すまない。
君を危険に晒した」

言った言葉から、もう盗聴器の心配は無さそうだ。
その声音はさっきまでの冷たさもなく、かと言って安室さんの温かさもない降谷さんのものだ。

「いえ…」
「病院に連れていきたいところだが…。
すまないが、僕の家で治療する」

声を発するのがしんどくなって頷く。
彼には見えていないけど、察して貰えたらしい。
もう一度すまない、と彼は言った。



安室さんとしての自宅の駐車場に到着したあと、彼はまた私を横抱きにして部屋に向かった。
部屋には諸伏さんが居た。

「ゼロ、手術の準備は済んでるよ」
「あぁ。
銃弾は貫通してる!」

よかった、と諸伏さんは安心したようだ。
その理由はわからないけれど、映画でも銃弾が残ってる方が大変そうな描写が多いのは事実のようだ。
手錠に手間取っていたのは、どうやら銃弾の痕跡も調べていたかららしい。

恐らく降谷さんのベッドに寝かされた私は、その振動の痛みに耐えた。

「服切るよ」

そう言った諸伏さんに頷くと、左肩が見えるように彼は服を割いた。
反対から降谷さんが白いガーゼを持ってくる。

「噛んでてくれ。
麻酔は入れるが、効くまでに舌を噛んだらいけないから」

口に放られたガーゼを噛むと、彼らは視線を合わせた。

「じゃあ、始めようか」

そう声を発したのは知らない人で、どうやら医者を連れ込めたらしい。

出来ることなら気を失いたいな。
そう思った私は、無事最初の工程で気を失った。






声が聞こえた気がした。
誰のものかはわからないけど、※※※、と必死に誰かを呼んでいる。
誰の声だろう。
ピンとは来ないけど、その声は酷く落ち着く。
そんな気がした。