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安室としての家の傍にある駐車場に戻った僕は、ホテルから出た時のように彼女を横抱きにして自室へ向かった。
部屋の中に入れば既にヒロが居た。
「ゼロ、手術の準備は済んでるよ」
僕とすれ違いざまにそう言ったあと、戸締りをしに行ってくれる。
「あぁ。
銃弾は貫通してる!」
「よかった」
治療がしやすいように移動されていたベッドに彼女を寝かせて、僕は手を洗いに行く。
戻ってきた時にはヒロが負傷した肩の服を切ったあとだった。
僕は用意してあった抗菌の手袋をして彼女の口元にガーゼを当てた。
「噛んでてくれ。
麻酔は入れるが、効くまでに舌を噛んだらいけないから」
大人しくそのガーゼを口に含んだ彼女を見たあと、僕とヒロは目を合わせた。
「じゃあ、始めようか」
そのタイミングで声をかけたのはヒロが連れてきた医者だ。
よろしくお願します、と声を揃えた僕らとは裏腹に、ひなさんの表情は不安げに歪められた。
処置を初めて直ぐに彼女は気を失った。
それだけの衝撃があったのだろうと察するが、長く彼女の苦しむ表情を見ずに済んでよかったと思う僕もいた。
無事手術を終えたあと、医者を帰す手配をして、僕たちは一息ついた。
そんな中、ヒロは僕に仮眠を取るように言った。
「いや、先にヒロが…」
「お前は明日も外出しないとだろ。
僕は自由効くし、少しでも寝ろよ。
ゼロが起きてから俺も仮眠とるから」
ひなちゃんの意識戻ったらちゃんと起こすよ、と言われてしまえば否定もしづらい。
柔らかいフリして頑固な親友が言い始めたら聞かないことも、長年の付き合いでわかっている。
僕はわかった、と素直に頷いてから、ヒロが持ってきてくれていた寝袋をリビングに広げて横になった。
熟睡とは程遠いが二時間ほど横になってから僕は起きた。
先にシャワーだけ浴びてヒロと変わる。
丁度空が白んできた頃だった。
ヒロもシャワーを浴びたらしく、水の音が聞こえたあと、寝袋に潜る音が聞こえた。
その音が落ち着けば、あとは室外の音ばかりが目立つ。
人が活動を始める頃合なのだろう。
車やバイク、場合によっては声までがこの部屋にも響いてきた。
僕は、今回何を間違えた?
最後に賭けに出たことか。
彼女に負担をかけたことか。
そもそも、彼女に出会ったことが間違いだったのか。
いつだかに思った。
許される限り、“1”…彼女を守りたいと。
今回の判断は、“1”も、“100”…仕事も選べずに揺らぎに揺らいだものだった。
覚悟はあった。
振り返らないつもりだった。
それなのに、いざその時が来ると、こんなにも決心が鈍るのか。
「はっ…これでよく、公安が務まるな…」
いつだかに風見に言った言葉だ。
その言葉は今、誰よりも自分に向けて放つ言葉だと理解している。
離れなければ。
この子と。
神様と。
僕の、希望と。
ふと、部屋の中の気配が動くのを察知した。
「…あむ、」
そう声が聞こえて、僕は顔を上げた。
喉の乾きか、声が上手く出なかったようだ。
眠っていた彼女が細く目を開けていた。
余りにも儚くて、今にも消えてしまいそうで、僕は彼女の枕元に寄る。
「痛みは?
どこか違和感とかはあるか」
頭を振った彼女に内心安心しながら、僕は小さく息を吐いてその場に座った。
ヒロを呼ばなくては。
そう思っているのに、身体が動かなかった。
「…僕の判断ミスだ」
思わず零れたのは、弱音だ。
彼女に言ってはいけない言葉だ。
分かっているのに、ぽろりと零れた言葉に表情を歪める。
ごめん、責任を逃れるための言葉が、勝手に口から出そうになった。
「ありがとう、降谷さん。
いつも守ってくれて」
その矢先に、彼女がそう言うから。
穏やかに笑うから。
まだ、君のそばに居ていいのかと、勘違いしそうになる。
そんな僕の勘違いを諌めるように、泣くたくなったのを誤魔化すように、僕はまた表情を歪めた。
「どういたしまして」
辛うじてそう伝えたが、彼女に届いたか自信はなかった。
不意に隣室からガタ、と物音がして、ヒロの事を思い出した。
否、忘れていた訳では無いのだが。
すぐに扉が開いたあと、ヒロがその顔を覗かせる。
察するに眠れず、かつこちらの会話を聞いた上でタイミングよく出てきてくれたらしい。
「ゼロ、物音がしたけど…」
ヒロは僕に問うたあと、そのままひなさんに視線を向けて表情を和らげた。
「気分悪かったりしない?」
ベッドサイドに寄りながらヒロはひなさんに問うと、ヒロは彼女の頭を撫でながらよかった、と呟いた。
ヒロが彼女を起こしている間に水を持ってきた。
昨日から今日にかけての経過を話すと、彼女は小さく頷いた。
彼女をすぐ返すには立場的にも怪我的にも心配だと無理やり納得させて、暫く三人で暮らすことにした。