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三人での生活初日、夜。
ヒロの元に散々連絡が来ていたという事で、萩原とビデオ通話を繋げた。

「ひなちゃん!」
「そんなに大きな声出さなくても聞こえるって…」
「肩撃たれたって聞いたよ。
大丈夫?」

萩原の問いに答えを悩んだのだろう。
ひなさんが僕とヒロを見比べる。
二人で会話が出来ればと思っていたが、完全に話を振られている。
萩原もひなさんを差し置いて僕らが映っていてもちっとも嬉しくないだろうから、画面には現れず口だけ挟む。

「左肩を撃たれたが、内蔵に関わる程内側ではなかったし、銃弾も貫通していたから問題ない。
神経とかの損傷も酷くなかったらしい。
出血は多かったから昨日心配だったのは寧ろそっちだな。
医師のもと手術も出来たからこの後処置を間違えなければ化膿することもないだろう。
ただ、抜糸は僕たちですることになるから諦めてくれ」

僕の言葉に目を丸くするひなさん。
何か変なこと言ったか?と思っていると、テーブルの反対側にいるヒロがくすくすと笑っている。

「医師みたいにちゃんと学んだ人じゃないことを諦めてくれってことだよ」

ヒロの言葉に、ひなさんはなるほど、とコクコク頷いている。

「あと、基本的に抜糸は痛みないから。
東都水族館の時だって痛くなかったろ?」

そう言えば、あの時の怪我の詳細は聞いていない。
そうかも!と笑う目の前のふたりと、画面の向こうからも聞こえる笑い声に思わず尋ねた。

「あの時は、どうして入院してたんだ?」

ビクゥ、と肩を揺らして、カタカタと震え始めるひなさん。
すぅ、と目から笑みを消したのはヒロだった。

「え」
「ふ、ふるやさんの馬鹿…!」

半泣きになった彼女に言われて、え、と僕は呟く。

「あの時も銃で撃たれた傷だったよね」

感情の起伏のない声に、当時のヒロの心痛がわかるというものだ。

「まさか病院でひなちゃんが集中治療室入ってるとこ見るとはねぇ…」

画面の向こうの萩原も感情のない声だった。
ひぃ、と身じろぐ彼女を思わずジロリと見る。
…まさか。

「あの銃弾が降り注ぐ中に居たのか?」
「わぁ、今度は研にぃと諸伏さんの馬鹿!」

あの銃弾こそきちんと当っていたら怪我じゃすまなかったかもしれないというのに。

「か、かすっただけ!だったよ!」

そう言う彼女に三人からの視線が降り注ぐ。
あわあわとしている彼女に、僕は思わず呟いた。

「…あまり僕らを心配させないでくれ…。
胃に穴が開きそうだ」

私のせいじゃないのに、という呟きは聞こえないフリをした僕らは充分優しいと思う。

「で、ひなちゃん、今は?
痛みとか大丈夫?」
「少し吊った感じとかはあるけど、痛みも酷くないし大丈夫だよ。
ありがと、研にぃ」

気を取り直して始めた二人の会話は温かくて、心地よいいものだった。

ただ、最後に言った言葉だけは余計だ。

「降谷ちゃんも諸伏ちゃんも男なんだから自衛しろよ!」

怪我をしている神様に、僕たちが手を出すわけないだろうか。



その日からだった。
彼女が悪夢で魘されるようになった。

基本的にはどちらかが起きて彼女を起こすようにと決めたが、そこでもヒロと一悶着あった。

「ゼロは昼間も仕事で大変だろ」
「…昼間お前も仕事なのは変わらないだろ」

子守りきりのニートではないのだ。
ヒロひとりだったらとっくに家に帰っている。
今も残っているのはひなさんの護衛があるからだ。

お互い無言で睨み合ったあと、ジャンケンをして僕が無事勝利した。
僕が家を出る時間までをリミットとして半々ずつと決めた。

彼女がどんな夢を見るのか、詳細はわからない。
それでも、彼女の魘された声を聞けば自ずと分かるというものだ。

やだ
やめて
蘭ちゃん
梓ちゃん
諸伏さん
研にぃ
松田さん
伊達さん
降谷さん

やめて
やめて
やめて
やめて
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

私を殺してよ

「ひなさん」

体を揺さぶるが、起きない。

「ひなさん!」
「う…ん」

目をぎゅっと瞑って、耐えるような表情。
薄らと瞳を開けたのを見て僕はもう一度名前を呼んだ。
灯りを点けて、そばにいる人間が誰かわかるよにすれば、目を覚ました彼女は僕をぼうっとした瞳で捉えた。

「ふる、や…さん」

たどたどしい言葉で紡がれた僕の名前に頷く。

「ここ…」
「僕の部屋だ。
君以外に僕とヒロしかいないよ」

そう言うと、彼女は強ばらせていた身体と表情を和らげた。
僕がヒロだったら、きっと彼女の頭を撫でていたのだろう。
でも、今の僕にその勇気はなかった。
彼女が今悪夢を見ているのは僕のせいだ。
僕みたいに、今も悪にいる人間が彼女に触ってはいけない。

「…むずかしいかお」

彼女に言われて、え、と僕は呟いて、かひなさんと視線を合わせた。
にこりと笑う彼女に、思わずすぐ視線を逸らす。

「ふるやさんのせいじゃないよ」

それだけ呟いて、彼女はまた瞳を閉ざした。
その優しくて温かい、ぬるま湯のような言葉が今の僕には苦しくて、歯を食いしばった。