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前の世界に居たとき、私は物語の中の降谷さんに恋をしていた。
いつも目で追っていた。
彼が笑えば嬉しかったし、彼が歯を食いしばって過去を思えば、彼の代わりに両目から涙が溢れた。
色々な人にばかにされる、どうしようもない恋だったかもしれないけど。
私には一世一代の、大切な恋だった。
今、私は恋をしていない。
降谷さんは私が見ていた物語の降谷さんとは別人だと思ったし、他の人に恋をする時間も余裕もなかった。
そもそも、あんな中身も外見も男前な彼らといて、私に他の誰かと恋をする、なんて選択肢が出現するのかは些か疑問ではあるが、今は考えないこととする。
本来なら、四人を全員助け終わった後、私は彼らの前から姿を消すつもりだった。
諸伏さんを助けられたと解ったあと、彼の協力者になって、気付けば研にぃが公安の協力者になっていて、そこでやっと私は気付いた。
もう、私に姿を消すなんて選択肢が残されていないことに。
私が彼らの輪から離れることを、二人は良しとしないだろう。
それに、私自身も研にぃと離れる将来はあまり考えられない。
だって。
そうでしょう。
これだけ、この人たちの命を切望してたのに。
こうして傍にいることが許される自分になってしまったら、もう、逃げられない。
この温かい空間から離れるなんて、私にはできない。
ならば。
私はいつか、あの人の隣に知らない女性が並ぶのを見るのだろう。
彼が私を選ぶ選択肢なんて思い浮かばないし、逆もまた然り。
彼がたったひとりの女性を選ぶとき、それはきっと梓さんのように彼と日常の幸せを分け合える人か、風見さんのように彼を支えられる人なのだろう。
現実か、物語か。
私の恋は行き先を失ったまま、今日も、明日からも、ただ、彼の、そして彼らの命を思い続けるのだ。