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コナン君と別れて、四人と一緒に二十四時間営業のスーパーに向かった。
研にぃと諸伏さんは何故か部屋に着替えが置いてあるので、残る二人にも買っておくよう伝える。
カートにセットした二つのカゴには一瞬で大量のビールと洋酒、つまみが入っていった。
自分用に炭酸水も入れて、私はハイボールでお供を決め込む。
お酒もだが、男五人だとどれくらいつまみ消費するんだろ…。
っていうか、この人たちご飯食べてないよね?
食事も買った方がいいのでは…?
家、多分何も無いけど。
「あの、家、多分何も無いんだけど。
皆ご飯まだだよね?」
諸伏さんの名前を流石にスーパーで口にする勇気はなく、腕を引いて注意を引く。
「大丈夫、買ってくから!
おーい、つまみだけじゃなくて飯も買えよ!」
「わーってるて」
フラフラと手を振る松田さんがカップ麺を手にしている。
あれだけ大変なことをしたあとの食事が、カップ麺…だと。
思わず頭を抱えた私は、再び横の人の腕を引いて申告した。
「…二人が問題ないなら、簡単なものくらいは作るけど」
「ひなちゃんなら大丈夫!
俺もあいつも食べるよ」
安室さんのお家に一緒に住んでいた頃は、怪我を理由に何もさせて貰えなかったから、諸伏さんと降谷さんに食事を作るのは初めてだ。
因みに、私の家で諸伏さんが食事を取る時は諸伏さんが知らぬ前に家に入っていて作っていることが大半だったので、諸伏さんにも初めてとなる。
このシェフ二人が本当に食べるのかは謎だが、自分で申告しておきながら緊張する。
…まぁ、二人より美味しくとか絶対無理だから勘弁してもらう他ないだろう。
適当に材料もカートに放り込んで、スーパーを後にした。
部屋に着いてから、薄汚れた面々を順にシャワーに押し込む。
女性の家の風呂に、と伊達さんは遠慮してくれたけど、土埃に塗れた人たちが私の部屋で座るのは許さない。
シャワーを浴び終わった順に居間に来い、と命令を下した。
買い物をして、四人が順にお風呂に入っている内に降谷さんがやってきた。
今は最後の研にぃが入り始めたところだ。
「いらっしゃいませ、降谷さん!」
「あぁ、お邪魔します…」
彼の姿は手当てこそしてあるが、清潔では無さそうだ。
「シャワー浴びられる?
浴びられるなら、今研にぃが入ってるから次入っちゃって。
難しければ蒸しタオルとか作るけど…」
「男が浴室使うのは嫌じゃないのか?」
「今俺たち全員、ひなちゃんに命令されて入ったとこだ」
「汚ねー格好で部屋入るなってよ」
伊達さんとズルズルとカップラーメンを食べる松田さんに言われて、降谷さんはむぅ、と唇を尖らした。
「シャワー借りる」
「うん。
スウェットは諸伏さんのね。
下着は諸伏さんが選んで買ったのあるから、これ使って。
汚れてる洋服はそのまま洗っていいやつなら洗濯機入れといて。
降谷さん出たら回すから」
浴室前待機を言い渡してから、私はキッチンに戻ろうと体を翻そうとした、その時だった。
「ひなさん」
「はい?」
正面に居る降谷さんが、小さな箱を取り出した。
一瞬何かとと思ったそれは、よく見ると見覚えのある箱だった。
「…あっ」
髄分前に、降谷さんに贈った桜の箸置き。
「今日、これを使って貰えないか」
じわ、と視界が緩むのを感じる。
それを気持ちだけで堰き止めて降谷さんの持つ箱を預かった。
「うん、使わせてもらうね」
まさか、原作が終わる前に使う機会ができるとは思わなかったけれど。
喜ばしいいことに変わりはない。
「あと、これも」
と、もうひとつ渡された小さな紙袋。
なんだろ、と思って袋を見ていると、開けてみて、と言われる。
素直に開けてみると、そこには同じ桜の箸置きがひとつ入っていた。
「え?」
「君も一緒に使って欲しいと思って」
さっき堰き止めた涙が零れる。
一粒と言わず、二粒三粒とぼろぼろと。
この人は、一体いつ用意したんだろう。
私が皆と一緒にこれを使っていいのだろうか。
そう心のどこかで思うけれど、嬉しい事実に変わりはない。
「あ、り…がと、降谷さん」
しゃくりあげそうになった喉を堪えてそう言うと、降谷さんがどういたしまして、と優しく笑った。
支度が終わった時、丁度降谷さんもシャワーから出てきた。
箸置きを皆のお膳に並べて、冷やしておいた缶ビールに、私は自家製ハイボールで乾杯をして、本日のお疲れ様会がスタートした。
座席は奥から伊達さん、降谷さん、諸伏さん、向かいに松田さん、研にぃ、私だ。
斜め席って一番視界に入るって子供の頃キャアキャアしてたやつ!と目を覆いたくなったのは秘密です。
曰く、降谷さん、諸伏さんとして話すのが久々な松田さん、伊達さんはこの数年の話をふんわりとしている。
どうやら二人にとって、引越しの時に諸伏さんに会ったのはノーカンにされているようだ。
「俺もここ最近だぜ?
この二人とちゃんと会ったの 」
仲間外れにされてしまった研にぃがそう言うと、松田さんがうるせぇ、と噛み付いてるのが面白かった。
「つーかなんでひながこの二人とちゃんと繋がってんだよ。
そっちが謎だろ」
「中学時代に会ってたから、かな?」
あはは、と笑う諸伏さんにノーコメントでぐいっと酒を煽る降谷さん。
わー、それ、ウィスキーロックですけど。
大してお酒に強くない私はそんな飲み方できないなぁ、とちょっと羨ましい。
「俺としては降谷、お前もう少し身の振り方考えた方がいいと思うぞ?」
伊達さんに言われて、降谷さんは伊達さんに視線を向けた。
「ビルからヘリに飛び込むって…。
三年前もビルからビルへ飛び込んでたけど、そろそろ若く無くなってくるんだしもう少し考えろ」
「出来るから問題ないだろ」
うわぁ、やったんだ、アレ。
顔に出ていたのか、松田さんが指差して笑ってくる。
友達を指差しちゃいけませんって教わらなかったのかな、この人は。
「ビルからビルは最近もやったよな。
車だったけど」
諸伏さんの言葉に、研にぃ、松田さん伊達さんが一斉にジト目をした。
「真の首席様はこれだからよォ…」
「せめて人間でいて欲しいよなぁ」
「周り巻き込むなよ…」
久し振りに会えたこともあって、終始槍玉に上がるのは降谷さんだ。
本人もそれは覚悟してたのか、不満を表すことはなかったけれど、やられっぱなしな降谷さんを見てるのは、普段無駄にかっこいい安室さんをいつも見てる身としては、少し面白かった。