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「具志堅?」
声を掛けられて、私は漸く意識を過去から現実に戻した。
会社の飲み会に誘われたものの、出る気はしなかった私は其れを断って、一人で飲みに来ていたのだ。
行き慣れた店の、カウンター席。
そこに座っていたら、甲斐君が店に来た。
((もしかして、具志堅?))
そう聞かれて振り返ったときは、まさか甲斐君だとは思わなくて吃驚したなぁ、なんて。
「わっさん、で、ぬーがや?」
「で、って酷いさぁ」
そう言って苦笑する甲斐君に、私は慌てて再び謝った。
「ま、構わんさぁ。
やー、なま付き合ってる人居るんばぁ?」
「えぇ!?」
いきなり聞かれて、吃驚した。
だって、さっきまで中学がどうのとか高校がどうのとか話してたのに!
なのに、どうしていきなりそんな話になるのかなぁ!?
心の中で絶叫しつつも、確実に私の顔は真っ赤だろう。
それ見たからか、甲斐君は慌てて謝った。
あ、さっきの私みたい。
「彼氏くらいいるよな。
わっさん、忘れて…」
って、なんか変な方向に勘違いされてる!
「あ、あらん!」
「あぃっ?」
「わ、わん、彼氏とか、いないさぁ。
……彼氏なんか居たら、なま、一人でくまーいないさぁ」
そう呟くようにして言うと、甲斐君はぽかんとした後、嬉しそうに笑った。
「ならゆたさんさぁ」
「ぬ、ぬーがゆたさん、なんばぁ?」
私がちょいと睨む様にして問うと、甲斐君はまた慌てて、首を横に振る。
「あ、あのっ、やなな意味はないんばぁよ!?
ただっ」
「……ただ?」
「………具志堅が、中学ぬ時うむてたよりもちゅらかーぎーやし、楽しい奴やくとぅ。
他ぬいきがぬもんだったら、悔しいというか、つまんないというか……」
ちょっと、待って。
何、その、なんか、嬉しい言葉。
何、その、幸せになれる言葉。
君は、今でも簡単に私を嬉しくさせられるるのね。
それから、私たちは度々会うようになった。
でも、私の那覇本社の勤務は今週で終わる。
甲斐君は、ずっと那覇にいるのだろうか。
もしそうなら、会えなくなってしまう。
そう思っていた矢先、甲斐君から明日会えないかというメールが来た。
私は考えていたことを誤魔化して、勿論、と返信した。
飲んでいた時、甲斐君は唐突に挙動不審になった。
否、正確に言うと、今日は初めから挙動不審だったけど。
「どうしたんばぁ?」
耐えきれず聞くと、彼はあー、と口ごもってから、呟く。
「なぁ、具志堅は、ずっと那覇勤務なんばぁ?」
「え?」
まさか、なんて思いが頭をよぎった。
甲斐君は照れたように笑って、頭をかく。
「じちぇー、わん、今月までしか那覇いないんばぁよ。
地元んかいけーるんさぁ」
だから、具志堅はどうなのかな、って。
甲斐君はそう続けた。
まさか、が本当になった。
どうしよう。
いや、嬉しいんだ。
凄く、嬉しい。
「あ、あのね」
この続きを言ったら、貴方は喜んでくれますか?
花咲くように笑った彼を見て、私の心臓は昔のように脈打った。
どうやら私は、私の言葉で、初めて貴方を喜ばせたみたいです。