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二週間、三週間と経てば彼女も茶碗一杯分は食べれるようになった。
「夜からはおかずも食べましょうか」
昼食を終えてからそう伝えると、コクリとまた頷く。
彼女は立って歩けないこともあってずっと僕の部屋にいる。
まだ盗聴器も外れていないので、バーボンとしての仕事が入らない限りは実に健やかな生活だ。
「何か食べてみたいものはありますか?」
聞いてみると彼女はふんわりと宙を見上げる。
「…マカロニアンドチーズ?」
「正気ですか」
ゼリーと粥しか食べたことない人間には重すぎるメニューだ。
「ダメなの?」
そう聞く彼女に、あぁ、それすらもわからないほど、今まで偏った食生活だったのだろう。
こて、と首を傾げる彼女に僕はふぅ、と息を吐いた。
スティルが食べたいといったものはアメリカの家庭料理だ。
ベルモットが食べていたものを食べてみたいのかもしれない。
「食べてみましょうか。
食べてみて、自分でどう思うのかを確認しましょう」
まるで小さな子供の食育のようだ。
…食物アレルギーの本、読んでおいたほうがいいだろうか。
調理を終えて彼女のいる部屋に運ぶと、匂いの強さに驚いたのか鼻に手を当てている。
「食べられなかったら無理はしないでくださいね」
そう伝えて、水分多めに炊いたご飯とマカロニアンドチーズ、副菜を差し出した。
「…いただきます」
先週教えたいただきますを披露して、彼女はまず米を頬張った。
少しずつ粥も水分を減らしていたが、ここまでしっかり粒が残っているのは初めてのはずだ。
過去にパンを食べたことはあるらしいから消化も問題ないだろうが、今日この量を食べて胃もたれを起こさない保証はない。
胃薬は準備済みだ。
いつもよりゆっくり咀嚼する。
こくりと喉を通過したあと、今度はマカロニアンドチーズに手を伸ばす。
匂いを嗅いだあと、頬張ると、それだけで彼女は目を丸くした。
米、ゼリー、パン。
どれからも想像の付かない味だろう。
それもまたゆっくり咀嚼してから飲み込むと、彼女はねぇ、と僕に声をかける。
「なに、これ?
すごいの、味。
強い」
単語を並べただけの文章に思わず笑ってしまう。
「スティル、味は濃い、って言うんですよ」
「濃い?
味は濃い?」
「えぇ。
マカロニアンドチーズは、味のしっかりとしたチェダーチーズを使っていますからね。
今までゼリーとお粥しか食べてなかったスティルにはとても濃い味だと思います」
僕の言葉をへぇ、と頷く。
いただきますとごちそうさまを教えた時も思ったが、小学生に物を教えてる気分になってくる。
「へぇ…。
ママは、凄く美味しそうに食べてたの。
でも…よくわからない味」
でしょうね。
「明日、薄い味のものを作ってみましょうか。
今のスティルならそっちの方が美味しいと思うかもしれません」
そう聞くと、スティルはうん、と頷いた。
翌日作った出汁巻き玉子とさけ、豆腐とわかめの味噌汁は多分美味しい、という評価を得て僕はこっそりガッツポーズを取った。
あの事件から三か月もすると、彼女は歩き回るようになった。
フローリングを傷つけるから松葉杖はつかないでほしいと伝えるとケンケンをしだす。
ケンケンをすると痛むようで、器用に蹲っているのをよく見た。
この子は、本当にヒロを殺したのだろうか。
仇相手に思うことになるとは思わなかったが、僕は最近そう思うようになっていた。
「ねぇ、バァボン。
私お出かけしたい」
唐突にそう言われて、は?と零した。
「前にキュラソーとやらかしたところ。
水族館?とか、観覧車とか、私行ったことないの。
何が楽しいのかよくわからないけど、行ってみたい」
何も隠さない素直な物言いだ。
最近分かったことがある。
彼女の中身はカラッポなのだ。
学校に通っていたが、勉学以外のことは教わっていない。
ありがとうもごめんなさいも、彼女は言葉の羅列としては知っているけど、意味は分からない。
そんな彼女が、人を殺す意味を理解したら、彼女は自分自身をどう思うのだろう。
そんなことを、考えていた。