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記載の住所は、人里離れたアパートのようだった。
二階の角部屋。
耳を澄ませても物音はしない。
容易にピッキングできるそれを手短に済ませて、音を立てずに扉を開けた。

すると、拳銃を構えて立っている男が、目を見開いてそこにいた。
僕が見間違えるはずもない、僕の親友本人だった。

「ヒロ…」
「ゼロ…?」

ヒロが拳銃を下ろして、表情をくしゃりと歪ませる。

「…スティルは、死んだのか」

言葉にせず、頷いた。
このリストを得るために、僕が殺した。
ヒロを、明美を、他にもたくさんのNOCを守った彼女を、僕が。

ずしりと体が重たくなる。
誰かに許しを請うことは、初めて人を殺した時から止めていた。

それでも、確かに今、僕は、赦しを欲していた。



群馬県警にいる公安に手続きを取って部屋にあった遺骨をすべて警察庁に送る様指示した。
ヒロと二人車に乗って、警察庁に戻る。
その車内で、スティルのことを聞いた。

「あの日、気を失ったあと、あの部屋で目が覚めたんだ。
ずっと軟禁状態だった。
連絡手段もないし、中から扉を開けるとドカン。
それでも、外に出れる手段はいくらでもあったけど…」

外に出なかったのは、ヒロの意志だったそうだ。

「ここから僕がいなくなったら、壊れるのは彼女だと思った」

知らないところで、それだけの綱渡りをしていたのだと、ヒロは言った。

「あの子は、何も感じていない目をしているのに、愛を欲していたよ。
もし、スティルがゼロにこの場所を託したのなら、きっと、スティルはゼロを愛していた」

愛してた。
本当に?
僕は、何も返せなかったのに?

「僕は…俺が、あの子を殺したのに…?」

君を愛しているなんて、俺が言って赦されるだろうか。




組織の遺体の中でスティルの遺体だけを特別扱いは出来ず、彼女が僕の家に残した服を骨壺に詰めた。
四十九日の後、親に無理を言って墓に入れてもらった。

「いったい誰なの?」
「籍は入れられなかったけど、入れたいと唯一願った人だ」

母の問いにそう答えると、両親は二人で目を合わせて、ただ、僕の傍に寄り添ってくれた。

両親には悪いが、この先僕が誰かと籍を入れることはないだろう。
愛する人を手に掛けた僕が、他の人を愛することも、愛していない人と籍を入れることも難しい。

それでいいと思った。
それがいいと思った。

生涯、君だけを想っていたかった。

「愛してるよ、ひな」

もう、この声が届くことは無いけれど。