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僕が情報を掴み、スティルにネズミ狩りをさせ、その傍ら情報を抜く。
そんな任務が多く回されるようになった。
もしかしたら僕こそがネズミだと疑われているかもしれなかったが、スティルの態度は初めて出会った時から大きく変わりない。

暫くして、ライこと諸星大がFBIの人間だとわかった。
本名は赤井秀一。
ジンとの任務中にしっぽを出した奴は同じくFBIの捜査官と共に逃走したそうだ。

こちらとしては正直痛手だ。
僕、スコッチ、ライと行動していた時間は長い。
その内スコッチ、ライの両名がネズミとなると僕も疑われかねない。

舌打ちしたい気持ちを抑えて、僕は任務に出る。
数日間、スティルと共にライの後を追ったが、捕まえることはできなかった。
後部座席に乗った彼女が車の中で膝を抱えていた。
どうやら落ち込んでいるようで、表情は暗い。

バーボンは冷徹な男だ。
周りに踏み込みすぎず、踏み込まれるのを好まない。
だから、僕がここで彼女を気にするのはおかしい。

何より、本来の仕事のことを考えても彼女に踏み込みすぎない方がいいに決まっている。
ヒロのことを思えば尚更だ。

「…そんなに悔しいですか、ネズミを逃がしたことが」

なのに、そんなことを聞いていた。
スティルはゆったりとした動作で顔を上げて呟く。

「私の仕事に、傷がついたわ」

傷。
ならば、ヒロの件では傷が付かずに済んだと。
こんな小娘一人に対して、僕はどうして仇も討てずにいるんだ。
そんな思いを表には出さずにふっ、と笑う。

「貴方にそんな人間らしい感情があるとは思いませんでした」

普段から感情等捨てたような目をしてばかりだ。
動作や表情は感情を表していても、目だけはいつもどうでもよさそうに宙を揺蕩っていた。

「あら、これでも本当に困ってるのよ?
ネズミ狩りなんて誰でもできること、失敗したら次がもらえないかもしれないじゃない。
どうせ仕事するなら楽で稼げるものがいいに決まってるわ」

そう言葉にした彼女の位置から見えないのをいいことに、右手に力を籠める。
あぁ、だめだ。
分かっているのに、血が沸騰しそうに感情が逸る。

「あなたは、」

何を言おうとしたのかはわからない。
だが、そう言葉にした時、僕の携帯が着信を知らせた。
電話の相手はベルモットだ。
一つ息を吐いてから、着信に応えた。

「なんですか?」

そう聞くと、ホテルまで送れとのことだった。
拒否しても駄々をこねられるだけなのはもうわかっているので、大人しく進路を変える。
切電した後、スティルに伝える。

「ベルモットがホテルまで送る様言っているので拾います」
「そう…」

また膝を抱えるように視線を落とす彼女に、もう言葉をかけることはしなかった。



指定の場所に着くと、ベルモットがひとりで立っていた。

「遅かったじゃない、バーボン」

いつも通り助手席を開けてるために外に出ると、第一声はお小言だ。

「僕にも仕事があるんですよ」
「あら、今日はどんな?」
「スティルと一緒にライ探しですよ」

ライがジンの逆鱗に触れたことは既に周知の事実なので隠すことではない。
素直にそう告げると、ベルモットの眉がピクリと動いた。

「…スティルがまだ乗ってるの?」
「えぇ、後部座席に」

そう告げると、ベルモットは後部座席のドアを乱暴に開く。
ベルモットのそんな行動は珍しく思わず目を見張った。

「…べる」

僕の位置からは丁度スティルの顔は見えず、声だけが聞こえる。

「仕事は終わったの?」
「…このままライを諦めるのなら、おしまいよ」

ベルモットがそう、と頷いた。
普段の話し方なのに、そこには温度が灯らないことが伺える。
どこの姉妹も仲がいいわけではないのはわかっているが、ここまで感情の乗らない会話をする姉妹がいるだろうか。

「なら早く出て頂戴。
ひとりで帰れるでしょう」
「わかったわ」

そう言って、スティルは後部座席から出た。

「じゃーね、バァボン。
ライの続報があったら連絡ちょうだい」

言われるがままに車を出て、歩き出すスティル。
思わず、彼女を呼び止めた。
夜も遅い。
襲われて素直に泣き寝入りするような戦闘能力でないことは分かっているが、僕は提案する。

「僕はふたりとも送っても構いませんが」

ベルモットにも言うように少し声を意識するが、スティルは振り返ることはなかった。
ベルモットもそんな僕の言葉を鼻で笑う。

「私にあの子と一緒に車に乗れって言うの?
やめてちょうだい、穢れるわ」
「な…」

その言葉を聞いて、スティルは何も言わずに歩き出す。
その背を視界の横で見たベルモットは珍しく自分で助手席のドアを開けて中に座った。

「早く出してくれる?」

そう言った彼女の圧に押されて、僕は車に乗り込んだ。



姉妹仲が良くないことは分かった。
あの態度で良いというのなら少々感覚がおかしい。

だが、スティルは何故言われたままになるのか。
彼女の意図がわからなかった。

暫く彼女に会うことはなかった。
だが、僕とは違う誰かとネズミ狩りをしているという話は聞こえてきたので彼女なりに元気にやっているのだろう。
楽で、稼げる、仕事を。



キールが赤井を殺した時にスティルは少し荒れたそうだ。
私の仕事、とジンに食って掛かっているところを見たことがある。
だが、ジンもスティルを相手にしていないようで、軽くいなされていた。