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放課後、言われた通りにコートに向かうと、目の前に立つのは眼鏡をかけた先輩らしき人。
部長かな、と思っていると、くいっと眼鏡を直して、呟くようにして私に話しかける。
「君が、立海大付属からの転入生ですか?」
「そうです」
頷くと、ざっと、周りに多くの人が現れる。
「何を企んでるのか、お聞きしましょうか」
その人は、感情の籠らない声で、言い放った。
周りの人たちは、先ほどの新垣君のように、私を品定めするように見ていた。
新垣君も、中に居た。
「企む……?」
「立海大付属から、なんて怪しすぎるさぁ」
帽子を被った人が言う。
「スパイかなんかか?」
次は太った人。
なんだろう。
つまり、私は、疑われてるのか。
「違います!
私は唯、テニスに関わっていたいだけ!」
「だぁからよぅ。
たーがやーぬくとぅば、信じるんばぁ?」
金髪の人が言った。
「わったーや、やまとぅんちゅぬくとぅなんか信じてねぇし」
なんで。
なんで、そんなこと言われなくちゃならないのよ。
同じ、中学生なのに。
「………なによ」
なんだろう。
私、なんでマネージャーをまたやろうと思ったんだろう。
あぁ、そうだよ、柳先輩があんなこと言ったから。
スパイと思われるなんて、正直思わなかった。
確かにそうだけどさぁ。
でも。
でも、あんまりじゃんか。
気付けば、私の目には涙が溜まっていた。
「泣けばゆたさんと思っちょるぬか?」
「あぁぁぁ、だからいなぐやしかん!」
「五月蝿いよ、平古場クン」
「やしが、こんな解りやすいの連れてくるなんて、立海大付属ってじちぇー弱い?」
その言葉を聞いて、頭の中が妙に静かになった。
全ての雑音が、消えた。
「まぁ、そこまで強くないでしょうね」
「部長も入院中らしいやー」
「まぁ、お飾りの部長なんじゃねぇ?」
そう言って、笑う。
ふざけんな。
幸村先輩がどんな思いでコートを離れてると思ってるんだ。
「ゃまれ」
「ぬーがあびったかよ?」
そう言われて、私の中で何かが音を立てて崩れた。
「謝れ!
幸村先輩に!
部長に謝れ!!」
気付けば、私は叫んでいた。
「はぁ?」
「幸村先輩がどんな思いで!
アンタ達なんか、10分ももたない!
そんな奴等に、どうして私がスパイなんかしなくちゃいけないのよ!
先輩達がアンタ達なんかに負けるわけないでしょ!?
私は、先輩がっ………」
いつの間にか溢れる涙を手の甲で拭って、私は最後に呟くようにして言う。
「全国で、戦おうって…っく。
ライバルとして、競おうって。
なんでっ、私は、味方で居たかったのに!
……仲間で、居たかったのに。
なんで沖縄なんか来なきゃいけないのよぉっ!」
その後、私は声を上げて泣いた。
仲間だった先輩たちに、馬鹿、阿呆と言いながら、唯泣いた。
ねぇ、先輩。
私、貴方たちの仲間で居たかったよ。
その為ならスパイだってなんだってやったと思う。
でも、先輩たちは、それを望まなかった。
真っ向勝負を望んだんだ。
なら、私だって、先輩たちと戦うために頑張るしかないじゃない。
でも、もう、挫けそうだよ。
皆と一緒に居られないなんて、辛すぎる。
わぁわぁとテニス部の面々の前で、輪の中心で、袖で拭っても拭っても拭っても溢れてくる涙を私は知らなかった。
暫くして、眼鏡をかけた先輩が私の肩を叩く。
「……ちょっと。
泣いても仕方ないでしょう」
「アンタに私の気持ちは解らないわよ!
仲間に捨てられた私の気持ちなんか!」
持っていた鞄をその人に投げつけて、私は膝を抱えて蹲る。
もうこんな人に慰められたことも、何もかもが悔しかった。
「におーっ、せんぱぃ…。
さな、だせんぱっ……」
涙は底をつかなくて、全員の名前を呼ぶのも疲れる。
「っ、帰りっ、たい、よぉーっ」
私がぐずっていると、誰かが頭に手を置いた。
「……ちょっと、知念クン」
「あぁ……。
わっさん、ぬーが妹みたいで…」
そう言って、手は引っ込められる。
それはまるで、ジャッカル先輩が手を引いてくれるように確かな力で、幸村先輩が撫でてくれたように温かかった。
泣いていると、腕をがしりと掴まれる。
何事かと思って顔をあげると、背のたかぁぁい人が私の腕を掴んでいて、私の身体をも持ち上げる。
「泣くな」
そう呟くようにいうぶっきらぼうな感じが、まさに真田先輩にそっくりで。
私はまた涙を溢した。
「あぁーも」
茶色の量の多い髪がうっとおしい人が、帽子をとって頭をがしがしと掻く。
掻き終わったかと思えば、帽子を被り直して呟く。
「わん、一抜け!
立海からぬ転入生ってゆーからどんなんかとうむったけど、もうやってられんやぁ!」
やさ、と共感するように頷くのは坊主頭の人。
「不知火先輩があびるなら……」
と、気の弱そうに言う。
教室で見せた気の強さはどうしたんだ、こんちくしょー。
そんな中、眼鏡をかけた人は、溜め息をついた。
「……しょうがないですね」
眼鏡の人は私に片手を差し出し、情けなく笑った。
「君は、本当にテニスが好き、なんですね」
呆れたように紡がれたその言葉に、私は大きく頷く。
まだ気管が痙攣してるのか、たまにしゃくりあげながら、呟く。
「ずっとっ、テニスして、たの。
もう、選手には、なれないけど、テニスと関わって…っ、いたくて」
私にとって、テニスは人生とイコールだから。
私は頭を下げて、呟く。
「お願いします。
マネージャー、やらせてください」
「歓迎やさ!」
そう言ってくれたのは、 太った人。
それに同意するように、全員が笑った。
唯一人を除いて。
「………やってらんねぇ」
金髪の人が呟いた。
私がその人の方を見ると、その人は、私を侮蔑したような目で見ていた。
「あーぁ、シラけたさぁ。
わん、ちゅーはけーる。
またあちゃー」
片手をあげて、その人はコートを後にした。
「金城……さん」
新垣君が、私の名前を呼ぶ。
「ん?」
「ゆたしく」
………あぁ。
私は、全国で、必ず貴方達に会いに行く。
「うんっ、よろしく!」