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うぁぁあっ

いつもとは違う悲痛の叫びを聞いたのは、浩一の手当てをした日の次の日。
今はレギュラー同士が試合形式の練習をしているはずで。
また怪我をしたのかな、そう思った。

「金城クンッ」

そんな中焦った声が私を呼ぶ。
何かと思って立ち上がって振り替えれば、足から大量の血を流す平古場先輩。
そんな平古場先輩に肩を貸す木手先輩がそこに居た。

「ッ!
そこ、地面に寝かせて、ベンチに足乗せてください!」

取り敢えず、傷口は心臓より上に、と指示をする。

「先生呼んでちゅーさ!」

甲斐先輩が叫んだ。

「甲斐先輩、呼ぶなら車持ってる先生も連れてきてください!」
「わぁった!」

私はタオルを持って、平古場先輩の傍にしゃがむ。

「先輩、意識ありますか?」

傷口より胴に近い所をきつく縛って、血の流れを止める。
こんな大怪我、応急措置も何もしたことがない。
専門に勉強してきた人、取り敢えずまず一番に保険医を。

早く、早く。

死ぬなんて事ないだろうけど。
でも、そう思わずにはいられなかった。

「ぅうっ」

痛みに滲む声に、涙目になる。
駄目だ、泣くな。
泣いちゃいけない。

この、テニスコートをいつも走り回る人に、自分を重ねちゃいけない。
平古場先輩は絶対復活するから。
テニスコートをまた、走り回るから。

だから、泣くな。
泣くな、私…。

「やー、ぬーんち、うんぐとーるちら、しちょるんばぁ?」

平古場先輩の言葉に、え、と呟く。
沖縄方言が、解らなかった。

「なんで、そんな顔してんだよ?」

辛そうに顔を歪めながら、平古場先輩は言う。
あぁ、こんな中、喋るのにも力を使うはずなのに。
私のことなんてどうでもいい、自分のことに専念してよっ。

「先輩がっ…怪我してるから、ですっ」

留めた涙が溢れだすのは簡単だった。
ボロボロと流れる涙に視界が歪む。

あぁ、もうなんで。

「敵わんやぁ」

ふっと小さく笑う先輩に、私はなにがですか、と声を張った。

「敵視してばっかなのに。
そんな顔されたら、もうどうしようもないんどー」

俺の負けだ。
平古場先輩がそう言った直後、先生が数人、甲斐先輩と駆けてきた。



病院に行く先輩に付き添って、私が車に乗る。
先輩達は試合が近いこともあって、平古場先輩が来るなと言ったのだ。

「金城さん、凄いわね」

そう言われて、平古場先輩の傷口を見ていた私はぱっと顔を上げた。

「何が、ですか?」
「ん、まずは応急措置。
あと、車を出せる人も連れてこさせるってところ」
「そう、でしょうか?」

頬を掻きながら呟くと、先生はクスクスと笑った。

「中学生でこの対応ができるなら、大したものよ」
「あ、りがとうございます…」

先生は平古場先輩と私を見比べて、平古場先輩に話しかける。

「平古場、いい彼女じゃない」
「ちょ、彼女じゃねーらん!」
「違いますから!」

先生の言葉に、私と平古場先輩は声を揃えた。

「えぇ?
隠さなくてもゆたさんさぁ」

運転をしている先生にもクスクスと笑われて、私は平古場先輩と目を合わせ、溜め息をついた。
この流れは、もう何を言っても覆ることはなさそうだと、私たちは早々に諦めた。
そんな元気ももう、体には残ってない。

唯、平古場先輩が元気そうで。
それだけで、もうよかったと思える私がここにいた。



全治二週間。
医者から告げられたことを先生に教えてもらって、よかったと心の中で安心した。
選手にとっては二週間なんて果てしないロスタイムだけど、それで治るなら。
また、コートを走れるなら、なんて短いロスタイムなんだろう。

「先生、ありがとうございました」

学校についてから、何も言わなずにコートに向かった先輩の変わりに、頭を下げる。

「いーのいーの、仕事だし」

そう言ったのは、私が泣きそうだから、なのかな。
ひねくれてそう思うけど、でも、もしそうならこの先生は本当に優しい人なんだな、と思う。

「さ、金城も部活、行けー。
木手に叱られるんどー?」
「はい。
本当に、ありがとうございました!」

車を出してくれた先生に言われて、私はもう一度頭を下げてから、コートに向かって駆けた。
途中で平古場先輩がまだ歩いてるかな、とも思ったけど、コートに着くまで、あの目立つ髪を見付けることはなかった。

コートに着いて、一番に目に入った。
先輩方に囲まれた平古場先輩。
やっぱり仲、いいんだなぁと思う。

私は、いつか立海の時のように。
あの中に入れる日が来るのだろうか。
来るとしたら、あと一体、どれくらい時を一緒にすればいいんだろう。