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平古場先輩は部活に来ては怪我をした足以外の筋トレをしていた。
筋トレが終われば、私の仕事も手伝ってくれる。
「金城、飲み物配る時間やさ」
「あっ、はい!
じゃ、行きましょうか」
平古場先輩と手分けをして、飲み物を持つ。
平古場先輩は私の仕事をしていく中で、何か発見があったらしい。
「ぬーが、休んでよかったって最近うむうんばぁよ」
「?そうなんですか?」
「おー」
コートに向かうまでのちょっとした会話が、最近は楽しい。
「くぬ仕事、余程テニスを好きか、仲間をうむってねーらんと、辛いだけやさ」
「…まぁ、少なくとも、恋愛目当てでやるには辛いですね」
「やさ?」
そう言って、平古場先輩はふわりと笑う。
「やくとぅ、金城が、じゅんにテニスが好きなんだなぁってうむうし、少しはわったーに仲間意識があるんだなって実感出来るぁ」
「あ、まだ疑ってたんですか!」
「改めてうむただけさぁ!」
私が声を張り上げると、平古場先輩は少し慌てて返事をした。
じぃっとその顔を見る。
平古場先輩は気まずそうな表情。
その表情を見て、私はくすりと笑った。
「あははっ、信じます、平古場先輩!」
私が言うと、平古場先輩はまたふわりと笑った。
そして、今日。
私は公式戦に立ち合う。
朝から、浩一の視線が気になる。
どうしたのって話しかけても、反応はなし。
私はどうすればいいんだか…。
「浩一、緊張してる?」
「別に…。
試合には然程してねーらん」
「強いねー」
私がそう言うと、浩一は何故だか複雑そうに表情を歪めた。
「浩一…?」
「わんが前に言ったこと、覚えちょる?」
「えっ、と、驚くなってやつ?」
「おー」
浩一はやっぱりいたたまれないような雰囲気を醸し出していて、私はそれを和らげる為に笑った。
「大丈夫。
驚いても、何しても、私は比嘉中の、仲間だから」
そう言うと、浩一は今度こそ確実に、悲しそうに目を伏せた。
「浩一?」
「ひな、」
「新垣クン、挨拶しますよ!」
浩一の言葉は永四郎の言葉で書き消された。
浩一はそれに頷いたら、もう私の方なんか振り向きもしないでコートに向かった。
後で、聞きにいこう。
そう思いつつ、私は比嘉中初の公式戦に心を踊らせていた。
なんだ。
このテニスは。
決勝の時私は思った。
なんて。
なんて、暴力的なテニス…。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。
明日は特別に、ミーティングだけですから。
しっかりと身体を休ませるように」
優勝旗を持つ木手先輩の言葉を聞きながら、私は唯悲しかった。
浩一に、驚かないとは言ったけど。
でも、でも。
「金城」
「…平古場先輩」
声を掛けてきた平古場先輩は、とても微妙な表情だった。
「……皆、実力あるのに…どうして?」
「全国大会優勝。
だぁがわったーぬ夢さぁ」
答えになってない返答。
私はやっぱりまだ、仲間にはなれないの、かな。
次の日のミーティングでは、反省点が主に紡ぎ出される。
試合に出た選手はそれの流れを思い出し、前回の大会から比べて良くなった点と、ミスなど、反省点を配られたプリントに書き出す。
レギュラー陣の真剣な様子を、少し離れたところから見ていた。
平古場先輩と浩一がちらちらと私の方を見てくる。
見てくるなら、いっそ言ってくれればいいのに。
何かを言葉にしてくれればいいのに。
そうしたら、真正面から切り捨てられる。
してはいけないことだと、説教出来るのに。
何も言ってくれないなんて。
惨めで、虚しくて、悲しくて仕方がない。
「っ………」
あぁ、先輩。
こんな時、私はどうしたらいいですか。
何も思い付かないのです。
怪我人が出なかった事だけが幸いでした。
でも、これからもこんなテニスを続けるなら。
きっといつか、大変な事が起こりそうで。
怖いのです。
いつか、彼らが後悔する時が訪れるのが。
ミーティングでは、結局私は何も言えずに終わった。
ミーティングが終わって、一人で教室に残る。
出るのは溜め息。
でも、誰にも届かない。
「………っ、赤也」
あんたみたいなテニスをする人が、ここにはたくさんいる。
あんたみたいに、いい人達ばかりなのに。
ねぇ、どうすればいい?
どうしたら止められる?
赤也すら止められなかった私には、止めるなんて、無駄な願いなのかな。
無意味なこと、なのかな。
学校の朝会で、表彰式が行われた。
地区大会1位の称号が、比嘉中に与えられる。
全国までは、あと県・九州大会を勝ち抜かなくてはならない。
それくらい、実力で勝ち抜ける人達なのに。
悔しくて仕方がない。
それでも私は、二週間後に迫った県大会で、彼らが後悔しないことだけを願って、マネージャー業をするだけだった。
大会が終わって、すぐのこと。
平古場先輩が、怪我から復帰した。
もう痛々しい包帯を見ることもなく、自由にコートを走り回ってる。
一瞬、羨ましいと思った。
でも、自業自得なんだ。
私が今、サポートに徹しているのは。
幼かった、自分のせいなんだ。
そう思って、ぐちゃぐちゃな心のまま、私は仕事を再開させた。
「やっぱりなまっちょるさぁ」
ドリンクを渡したときに、平古場先輩に言われた。
「やしが、痛みもねーらん、ちばらんとやぁ」
「………そうですよ」
自然と、口が開いた。
「勝たなくちゃ、ダメです」
卑怯なことをしてまで、手に入れたい勝利なら。
「最後まで、諦めないでくださいね」
平古場先輩は、目を見開いた。
驚いてるのだと思う。
そりゃそうだ、私も驚いてる。
でも。
きっと彼らはそこまで覚悟の上で、あんなテニスをしてるから。
だから、最後まで、全国を狙う。
私はそれを、“サポートする”んだ。
まだ納得出来ないことばかりだけど、無理矢理に整理をつけて、私は笑った。
「先輩達のサポートをするって決めたんです。
頑張ってもらわなくちゃ、私が困ります!」
「っ」
平古場先輩が、俯く。
そして、息をふっと漏らしてから、顔を上げた。
「なら、とことんサポートされるさぁ!」
そう言って笑ったその顔は、きっと私くらいにふっきれていて、清々しい表情なのだろう。