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無事に比嘉中は九州大会まで勝ち進んだ。
そんな九州大会の決勝前日、練習の休憩中に、私の携帯は鳴り響いた。
木手先輩に許可を貰って、その着信に出る。
と。
懐かしい声が耳に届いた。
『ひな?』
「赤也!?
なになに、久しぶりじゃん!」
久しぶりに聞いた元チームメイトの声に感動して、つい声を張り上げる。
『いや、唯なんとなくさ。
どうだよ、そっちの学校は?』
「楽しいよー。
立海はどう、勝ち進んでる?」
聞くと、赤也はへへっと笑った。
『お前、それ聞く意味あんのかよ』
「あははっ、凄い自信で。
こっちもね、勝ち進んでるよ。
皆すっごく強いから、覚悟しててよね!」
私が言うと、赤也はふーん、と呟いた。
『ま、上手くやってるみたいだなー。
じゃ、また今度メールすっから』
「うん、じゃねー」
電話を終えると、全員が私の方を見ていた。
「あ、の、先輩方?
どうかしましたか?」
固まって私の方を見てる皆に聞くと、甲斐先輩がふっと笑った。
「いや、なんでもないんどー?」
「えぇ、何も」
甲斐先輩の言葉に頷くように、木手先輩も笑う。
「ただ、やぁ?」
「おう」
知念先輩の言葉に、田仁志先輩が頷く。
「ひな、わったー、ちばるさぁ」
「やさ」
浩一の言葉に、不知火先輩がコクコクと首を頷かせる。
「じゃ、練習再開しますよ!」
どこか機嫌の良い木手先輩の言葉に、全員が頷く。
どうしたんだろう、ホント。
一人取り残されていると、平古場先輩が目の前に居た。
「金城」
「平古場先輩!
練習、いいんですか?」
木手先輩達の方を見て聞けば、すぐ行く、と返された。
「あのさ、ちゅー、まじゅんけーるあんに?」
「え?」
「約束やくとぅ!
忘れるんじゃないんどー!」
平古場先輩は、輝かしい笑顔を残して練習に向かった。
なん、だったのか。
嵐の様に去っていく平古場先輩の背を見つめて、私は心臓に手を置いた
どくどく言ってるのは、間違いないみたい。
イヤ、これは恋とかそんなんじゃなくて。
唯、平古場先輩の言動に驚いただけで。
あぁ、だってそうでしょう?
平古場先輩はあんなに私のこと嫌ってたんだもん。
望みの無い恋なんて、私はしない。
だって、そんなの寂しすぎる。
だから、早く心臓、元の速さに戻ってよ。
部活も終わって、着替えを済ませて部室の前で待つ。
ばくばく言ってる心臓は気のせい、気のせい、と何度も自分に言い聞かせる。
「金城!」
そう張り上げられた声に顔をあげれば、そこには平古場先輩が居た。
「待たせた?」
聞かれて、私は首を横に振る。
「いえ、今来たところです…」
って!
何このデートの待ち合わせみたいな会話!
あー止め止め、考えるの止めたっ!
考えても心臓が暴走するだけだ!
「えー、金城!」
平古場先輩の声がさっきよりも張り上げられて、私ははっとした。
「は、はい?」
「うり、けーるんどー?」
そう言って握られたのは確実に私の手で、また私は意識を頭の中へと返した。
特に会話を繰り広げる訳でもなく、よく部活で来る海までを歩く。
私の手は未だに平古場先輩の手の中だし、平古場先輩は前を進むだけだし。
あぁ、平古場先輩が止まる前に。
こっちを振り返る前に。
赤い顔をどうにかしなくちゃ。