マリオネットと秘密の部屋

新たに2人の犠牲者が出て以来、生徒たちは個人での行動はできなくなった。授業間での移動は必ず教師が付き添い、夕方6時以降の外出は禁止、クディッチなどのクラブ活動も禁止となった。
そして翌日の朝になるとダンブルドア及び森番のハグリッドがいなくなっており、それが余計に恐怖をあおった。
息がつまりそうになるような集団生活。自由な時間はないに等しい生活に多くの生徒は辟易していた。
試験が予定通り行われることが発表され、そうだとは思ってもなかった生徒たちは慌てて勉強を始めた。既に勉強をしていた生徒たちはしてなかった生徒たちよりは余裕そうにしている。

「あの、シア!」

シアが朝食を食べ終えて手持ち無沙汰にいた頃、ジニーが話しかけてきた。珍しいと思いながら、シアは彼女を見る。
どこか青白い顔は彼女の体調を物語っていた。

「……どうしたの?」

「ちょっと、一緒に来てくれる?」

ジニーは心配そうな顔でシアに訊いた。
シアも少しだけならいいだろう、と思い頷く。
それを見てジニーは嬉しそうにシアの手を掴んだ。

「早く行きましょう!」

ジニーの力は思いのほか強く、シアは転びそうになりながら大広間を出た。
ジニーに手を引かれて行った先は3階の女子トイレだった。まさかそんなに遠くまで来るとは思ってなかったので、シアは困惑する。
ジニーはトイレの扉を閉めて、シアに訊く。

「あのね、シアに訊きたいの」

「なに?」

「……あなたは、ヴォルデモート卿とどういう関係なの?」

いきなり出てきた"ヴォルデモート"の名前にシアは驚く。

「…………誰?」

全く聞き覚えのない名前だった。
ジニーはその答えは予想してなかったのか、目をぱちくりさせる。そしてその見た目に似つかわしくない高笑いをした。

「あははは!まさかそんなに無知なんて!ああ、友人いないから聞いてないとは少しだけ思っていたけど、まさか本当にそうだなんて!!」

まるで何かのたがが外れたように、雰囲気を一変させて笑う彼女に、シアは首を傾げる。いったいどういうことだろう。

「はは、まあいいや。君とはこれからよく話せるのだから」

そう言って、ジニーは杖を取り出した。シアはすぐさま応戦しようとするが、何故か攻撃ができない。傷をつけることができない。

「──ステューピファイ」

そしてシアの意識は途絶えた。





シアが目を覚ますと、そこは薄暗いところだった。空気はじめじめとしており、着ていたローブや制服も地面に溢れた水に濡れて重くなっている。
肌にべったりとまとわりつく制服の感触に気持ち悪いと思いながら、シアはとりあえず立ち上がった。

「やぁ、目が覚めたかい」

そう言って彼はシアに声をかけた。以前図書室で会った、シアと似た彼だ。

「覚めたけど……。ここはどこ?」

「ここは秘密の部屋さ。僕が秘密の部屋を開けて、バジリスクに生徒たちを襲わせていたんだ」

彼はそう言って笑う。バジリスクは蛇の王と呼ばれる、と「幻の動物とその生息地」に載ってたはずだ。あとはその目を見たものは殺されることと、牙に毒を持つこと。そして、

「………ここ400年ほどは発見されてないはずじゃ?」

「へぇ、よく勉強してるんだね。まあ1000年近く前からここに閉じ込められてたし、50年前に僕がこの部屋を開いたときはバレなかったからね。ただ発見されてなかっただけさ」

「50年前?」

「そう。僕は50年前にもこの部屋を開いてバジリスクを解き放ったのさ」

優越感に浸ってそう言う彼の雰囲気は、図書室出会ったのとは全く別だった。けれど、その雰囲気は以前感じたことがある。

「………ジニー?あなた、ジニー?」

「違うよ。最初以降、君と会う時は彼女の体を借りてただけさ」

まるで、彼はジニーの体を操れるような口ぶりだ。よく事情を知らないシアは首を傾げる。
その様子に彼はクツクツと笑った。

「まあそこら辺はいい。問題は君がヴォルデモート卿とどういう関係なのか、だ。ああ、ヴォルデモート卿のことは知らないんだったよね。例のあの人、とでも言えば分かるかな?」

それは知っていた。かつて魔法界を闇に落とした魔法使いだ。未だに魔法族は恐れて名前を言わない。
シアがコクと頷くと、彼は瞳を赤く輝かせながら言う。

「実は僕は彼の過去でね。そして過去である僕によく似た君は、ヴォルデモート卿の何なのか興味があったんだけど……本当に知らない?」

「知らない。物心ついたときには孤児院だった」

彼は唸るが、しばらくして考えるのを諦めたようだった。ため息をつく。

「まあいい。とりあえず君に訊くことはもうない」

そう言って彼は無言でシアに魔法をかけた。今度は気を失わないことにシアは首を傾げる。
その時、秘密の部屋の扉が開いた。