果たしてその3人に加わったシアは、ただ何もせず、話を聞くだけだった。チラチラとセドリックがこちらを気にするが、その度に大丈夫、という目を向ければ、すぐに彼は会話に戻った。
4人居るのに常に喋っているのは2人だけ。変わった空間だった。
そして、その時は来た。
突如、ホグワーツ特急が速度を落とし始めたのだ。アルフ以外の3人がそのことを訝しむ。
「やったー!やっと着くー!ご飯だー!!」
「違うぞ、アルフ」
ラザレスがそう言った。そこでアルフも、3人の表情がおかしいことに気づく。と言っても初対面のシアの表情はよく分からないが。
「幾ら何でも早すぎるよね……」
セドリックがそう言った。
「外も、ホグワーツは見えませんし、駅も見えません」
シアが言う。常なら、ホグワーツ特急が止まる時には、小さくだが、ホグワーツが見えるのだ。それが見えないとなると程遠いことが分かる。また、駅ではないところに止まることなど有り得ない。おかしいことだらけだ。
うーん、とセドリックが唸ってコンパートメントの扉を開ける。
「どうやら他の人たちも同じ結論みたいだね」
ということは他の生徒たちも同じように辺りを見回しているのだろう。
その時、フッと明かりが消えた。
「うわなにっ!?てか寒っ!」
「窓が」
ラザレスの声に、コンパートメント内の視線がそちらに行った。パキパキと音を立てて、急速に氷が張られていく。それは異様な光景だった。
「……いや、まさか」
セドリックが何か気づいたように呟く。彼の顔は血の気が下がり、とても青白かった。
その時窓の奥をすっと横切った黒。シアはそちらを見た。
「
小さな声が、コンパートメント内に大きく響く。他のコンパートメントでも気づいたのか、列車内は異様な静けさに包まれていた。
ガラ、とコンパートメントの扉が開いた。ひっ、と誰かの声が響く。そんなの気にする余裕はなかった。ただ、現れた吸魂鬼から誰も、目を離せなかった。
吸魂鬼はコンパートメントを見回し、空気を吸った。何かが吸魂鬼に流れ込む。何だろう、と思える程にはシアは冷静だった。ただ寒い。シアは鳥肌の立った肌を撫でた。
黒く、静かな空間に、突如銀の光が現れた。それが視界に入った瞬間、吸魂鬼は慌てて反対側へ逃げた。そう、逃げたのだ。あの吸魂鬼が。シアがそのことに感嘆していると、誰かが息を吐いた。
「あれが、吸魂鬼……」
「うわー、超怖かった。何あれ。もうなんか死にたくなった」
「死ぬな、アルフ」
「死なないよ、ラザレス」
再び始まった軽い会話に、コンパートメントの空気が緩む。先程までの冷たい空気はどこへやら。
しばらくすると明かりも戻り、列車内は声で溢れた。
「シア、大丈夫?」
セドリックが訊く。
「はい。ただ、あの銀は何でしょう?」
「うっわ、意外と肝座ってるねぇ」
アルフが言う。ラザレスも同じ感想なのか、一つ頷いていた。
対してセドリックは顔を緩めた。
「なら良かったよ。あれは多分、
「教師が乗ってたんじゃない?」
セドリックの疑問にアルフが答える。それに疑問を呈したのはラザレスだ。
「何故教師が?」
「予想してたとか?だって吸魂鬼はアズカバンにいるじゃん?それが自然に逃げ出すわけないし、多分魔法省のお達しでしょ?それを教師が知らないわけないじゃん。で、こんなこともあろうかと1人くらい乗せてたとか?」
なるほど、とでも言うようにラザレスが頷く。あ、とセドリックが声を上げる。
「そんなこと、父さんが言ってたかも」
「さすが魔法省勤めのセドリックパパ!そんな情報も手に入れてたのか!俺のおやじ、引きこもりだからなー」
ぶーぶーと不満の声を表すアルフに、セドリックは苦笑いをした。
その時、コンパートメントの扉が開いた。先ほどのことを思い出したのか、アルフの肩が大きく跳ねる。
「ああ、ごめん、怖がらせたかな?」
そこには吸魂鬼ではないが、吸魂鬼ほど汚れたローブを身に纏った男性がいた。
「吸魂鬼はここにも来た?」
「はい」
「ならこれを」
「はいはーい!教師ですか!?教師ですよね!なら俺の予想大当たりー!うぇーい!」
男性とセドリックの会話を遮ってアルフが叫ぶ。それをラザレスが殴って止めた。
「元気だね。それなら安心だよ。はい、これ4人で食べて。気分が良くなるから」
「ありがとうございます」
「いってーよラザレス!何も殴って止めなくても!」
「そこに頭があったからな」
「バイオレンス!」
アルフとラザレスの会話に苦笑をしながら、教師らしき人物はセドリックに挨拶をして去って行った。
セドリックは早速貰ったチョコレートをアルフとラザレスに渡した。2人はまだ会話を続けている。
「アルフ、成績悪いけど勘が良いんだよね。予見者の血を引いてるらしいよ」
そっと耳元で囁かれた言葉にシアは頷く。あまりにも予見者らしくない性格だ、という感想は心に留めた。
ホグワーツ特急が動き出す。今度こそホグワーツへ。