そんなことを思いながらシアは食事を進め、寮の部屋に戻ってきた。約ひと月半ぶりの黄色と黒で構成された空間は懐かしく、ひどく落ち着いた。
そのまま荷物整理に移ると、「シア」と呼ばれる。そこには今日一日ほとんど目にしていなかったリドルが不機嫌そうに立っていた。体がないから厳密には��立っている�≠ニは言えないかもしれないが。
「どうしたの?」
「……別に」
そう言いながら彼はふわふわと移動してシアのベッドに腰掛けた。まるで自分の居場所のように足を組んでくつろいでいるが、そこは彼の場所じゃない。
今までに見たことがないくらい機嫌の悪い彼に訝しみつつ、まだ同室の子が誰も戻ってくる様子がないことを確認して、尋ねた。
「そういえば、どうして今日は出てこなかったの?」
「…………君の邪魔をするのもあまり良くないと思ってね」
「ふーん」とシアは返事をしたが、どことなくその発言に違和感を覚えた。まるで彼がこちらのことを慮ってくれているような言葉だが、彼はそのような気遣いはしない性格だと、この短い期間でよくわかっていた。怪しい。
そんなことを思いつつ、少し集中してシアは彼の気持ちを探る。どうしてか彼と混じりあっているらしく、そうやって感情を理解するのはもうお手の物だった。
それで、わかったことは――
「……あなた、��寂しい�≠フ?」
「うるさい」
不満げな声が耳朶を打ち、シアは首を傾げる。どうやら彼は��寂しい�≠轤オいが、その理由がよくわからなかった。まったく、これっぽっちも。元々感情なんてよくわからないから……。
とりあえず彼のことなんかどうでもいいと疑問をポイッと放り投げ、シアは荷解きを進める。途中同室のハンナたちが戻って来て「おしゃべりしましょ」と言ってきたがそれを丁重に断り(けれどどうやら彼女たちもシアのことがわかってきたらしく、あまり気を悪くした様子はなかった)、早々に眠りにつく。
その直前、リドルがふわりとどこからともなく出てきて、そっとシアの頭を撫でた。「なに?」とシアは小声で尋ねる。
「なんでも?」と言うリドルは、少しだけ機嫌が良さそうだった。
そうして三度目にして今までとは違うホグワーツ生活が始まった。
授業数も増え内容が高度になったことはもちろんだが、一番の変化はやはりリドルの存在だった。彼の経歴はよく知らないがかなり優秀だったらしく、その上すでに三年生の授業内容を終えていたためレポートのヒントとなる参考文献を教えてくれたり、あるいは先々の授業の内容なども教えてくれたりして、シアは今まで以上に上達が早くなった。
「ミス・ランドール、さすがです。ハッフルパフに十点」
変身術の授業で。今日も今日とて一発で魔法を成功させれば、隣に座っていたハンナが「さすがシア!」と言って抱きついてきた。シアは体勢を崩しかけながらも、突撃してきた彼女を支える。
今年に入ってハンナはよく隣で授業を受けるようになった。昨年度末に言っていた『もっと話したい』という言葉を実践しているのだろう。今までセドリックやリドル以外とさほど話したことがなかったため戸惑いつつも、シアは彼女の行動を受け入れていた。
「それにしてもシアはすごいわよね〜。どうしてそんな簡単に成功させられるの?」
「………なんとなく」
「もう!出し惜しみしなくてもいいのに!」
そう言って軽く背を叩いてくるハンナに、しかしシアは何も言うことなくごまかすしかなかった。
何せ、本当に��なんとなく�≠ネのだ。なんとなくやったら魔法がきちんとできる。まるで最初からできて当然と言わんばかりに。
実技だけではなく、筆記もそうだった。あたかもすでに知っていることを思い出しただけ、という感じに、一度話を聞いたらすぐに覚えられて、しかも関連して知らないはずのことまで脳に刻み込まれる。
それを伝えたところで目の前の彼女が信じてくれるとは思えないので、シアは黙っていることしかできなかった。