マリオネットと騒動

その後ホグワーツに戻れば、同じようにホグズミードから戻って来たと思われる生徒たちがいて、ホグワーツはわいわいと活気に満ちていた。さっそく誰かが悪戯グッズでも使ったのだろうか、かすかに悲鳴が聞こえたような気がした。
そんな中シアはセドリックとぽつぽつと会話しながらハッフルパフの寮へと戻る。樽を叩いて隠し扉から入れば、ざわめいていた談話室は途端に静まり、居心地の悪い視線が向けられた。「あー……」と隣にいたセドリックが気まずそうな声を上げる。

「……みんな、それぞれのおしゃべりに戻っても大丈夫だよ?」

セドリックはそう言ったが、談話室は冷えきったままで。
明らかにおかしいこの状況にシアが困惑していると、一人の女生徒が椅子から立ち上がって堂々とした足取りでこちらに近づいてきた。彼女の視線はセドリックのほうにだけ向いている。「ねぇ、セドリック」という声は鋭さに満ちていて。

「こんな子のなにがいいの?こんな、人形みたいな――」
「カーラ」

セドリックが聞いたことないくらい厳しい声を発した。それはカーラと呼ばれた女生徒にとってもそうらしい。彼女はビクリと肩を跳ねさせ、どこか怯えた様子でセドリックを見上げる。

「セ、セドリック……?」
「僕の友人をそんなふうに言わないでくれる?」
「でもこんな子、あなたにふさわしくないわ!」
「誰が友人か、決めるのはほかでもない僕だよ」

感情をあらわにする女生徒に対し、セドリックはあくまで淡々とそう言う。
それでもなにか言おうとした女生徒だったが、セドリックはシアの手を取ってくるりと踵を返す。「行こう、シア」
はたしてこのままでいいのか。そんなことを思いつつも、シアはセドリックに連れられて入ったばかりの談話室を出た。
相変わらず廊下はざわざわとしていたが、先ほどまでとは違ってどこか遠いような気がした。二人分の足音がやけに大きく聞こえる。
やがて適当な空き教室に入ると、セドリックはそっとため息をついた。

「ごめん、シア。たぶんこういうことになるとは思ってたけど、予想以上にすごくて……」
「大丈夫です。セドリックのせいじゃありませんから」
「でも――」

その後もなにか言い募ろうとしたセドリックだったが、シアはそっと彼の唇に人差し指を当てた。

「わたしがいいって言ってるんです。だからいいんですよ」
「……ありがとう」

セドリックはふわりと微笑んだ。それはさすが人気者と言いたくなるような、惚れ惚れするような笑みで。

「……でも、これからどうしようね」

ため息混じりに彼はそう言う。

「……まあ、なんとかなるんじゃないですか?セドリックは大変そうですけど」
「あー、うん、そうだね……」

セドリックはどこか遠い目をした。今後、彼の周囲で巻き起こる波乱のことを考えているのだろう。

「でも、シアも気をつけてね。こんな状況に巻き込んだ僕が言うのもあれだけど、誰かが逆恨みして襲いかかるかもしれないし……」
「大丈夫だと思います。わたし、それなりに魔法は使えますので」

それに万が一のときはリドルがいる。優秀な彼ならばなんとかしてくれるだろう。
そんなことをこっそりと思っていれば、「さすが学年首席」とセドリックは笑った。

「セドリックだって首席じゃないですか」
「でも正直、シアには敵わないって思うよ。同学年だったらたぶん君が首席だった」
「……そうでしょうか?」
「うん、少なくとも僕はそう思う」

そう言って彼は苦笑した。そのことが少しだけ居心地が悪かったが、否定してはセドリックに対して失礼だろう。
ひとしきり笑うと、彼は教室の出口へと向かう。扉に手をかけ、こちらを振り返った。

「じゃあ、僕は談話室に戻るね。シアは少ししたら戻って来るか、どこか別の場所へ行くといいよ」

――最後はこんなことになっちゃったけど、シアと過ごせて楽しかった。ありがとう。そう言い残し、セドリックは教室を出て言った。
一人取り残され、シアはどうしようかと考える。おそらくセドリックは談話室の騒動を治めに行ったのだろう。だったら彼の忠告に従ったほうがよいのだろうが、ではどこへ行けばいいのだろう?

「シア」

考えているとリドルが出てきた。「リドル」と声を漏らせば、彼はシアに向かって手を差し出してくる。

「ブレスレット貸して」
「……なんで?」
「それを僕の媒介にしたいからさ」

そういえばそうだった。今のシアとリドルの魂は溶け合ってしまっている。そのため相手の考えていることなどがわかってしまうのだ。
それを避けるために夏休みリドルが要求していたのが、自身の媒介となる物である。確か結局セドリックからもらうということで決まっていたから、もらったばかりのこのブレスレットを彼の媒介とするのだろう。

「わかった」

そう頷き、シアはブレスレットと、ついでに杖も渡した。よくは知らないが、媒介にするとなるとやはり魔法を使うだろう。それならば杖だって必要だ。
リドルはうっすらと笑みを浮かべるとシアの差し出した物を受け取った。しばらくなにやらぶつぶつと唱えたり杖を振ったりする。
シアは特に興味がないためぼんやりと過ごしていると、どうやら終わったらしい。「はい」と言ってリドルがブレスレットと杖を差し出してきた。

「これで僕の媒介はそのブレスレットになった。……君、それを外さないでよ?」
「動けなくなるから?」
「……そうだ」

苦々しい表情でリドルが頷く。確か以前媒介からはあまり離れられないと言っていたはずだから、もしかしてと思ったのだが、やはりそうらしい。

「……わかった」

シアが頷けば、リドルはどこか安心したような目をした。
さてこれでやることはなくなった。これからどうしよう?談話室に戻るにはまだ早いだろうし……。
そんなことを思っていると、リドルがぽつりと呟いた。

「――図書室は?さすがに図書室で騒動は起きないと思うけど」
「……確かに。そうする」

シアがそう言えば、リドルはどこか嬉しげに口角を上げた。

――その数時間後、シリウス・ブラックがホグワーツに侵入した。
おかげで生徒の意識は逸れ、誰もセドリックとシアの関係性について尋ねてくることはなかった。