マリオネットとブレスレット

※書き損ねていたので追加しました。



三本の箒を出ると、シアはちらりとセドリックのほうを見た。
セドリックとバタービールを飲みながら軽く話をしていたのだが、なぜか途中から彼はぼんやりとするようになった。頬もなんとなく赤いようだし――風邪だろうか?
そんなことを思っていれば、セドリックが「次はハニーデュークスに行こうか」と言って微笑を浮かべる。その顔はどことなくぎこちない。

「セドリック」
「なに?シア」
「……無理はしないでくださいね」
「え?……ああうんもちろん」

セドリックは戸惑ったような表情を浮かべたものの、すぐに頷いた。その様子から、嘘をついているようには見えない。
取り越し苦労だっただろうか、と思いつつも、万が一があることだしセドリックのことをよく見るようにしておこう。そう決意をしつつ、セドリックと並んでハニーデュークスへと向かう。
セドリック曰く、ハニーデュークスはお菓子屋らしい。魔法界独自のお菓子はもちろんのこと、マグルのものもあるのだとか。
それを聞いてなんとなくふわふわとした気分になっていると、目当てのハニーデュークスにたどり着いた。窓から中を覗けば、ものすごい数のホグワーツ生で溢れ返っている。
この中に入るのか……と若干苦々しく思っていると、セドリックが「シア」と呼んできた。彼のほうを向けば、少しだけ心配そうな顔をしていて。

「嫌かい?」
「……いいえ、大丈夫です」
「ほんとう?嫌なら別に……」
「大丈夫ですから。行きましょう」

そう言うと、シアはハニーデュークスの扉に手をかけようとした。まさにそのとき。
内側から扉が開き、シアは慌ててその場から退いた。わずかにバランスを崩しかけ――そこを背後からがしりと支えられる。上を向けば、セドリックが安堵の息をついていて。

「――セドリック」
「大丈夫、シア?怪我とかはしてない?」
「はい、大丈夫、です」
「それならよかったよ」

セドリックがそっと目を細めた。熱のこもった灰色の瞳がシアを見下ろす。
――なんとなく落ち着かなかった。「ありがとうございます」とお礼を言ってすぐさま彼から離れる。

「今度こそ、行きましょうか」
「……うん、そうだね」

そう頷くセドリックの双眸は、どことなく寂しげに見えた。

ハニーデュークスでいくつか魔法界のお菓子を買う。――といってもシアが自由にできるお金なんてほんのわずかだから、ほんとうに少しだけだけれど。
お金を払ったあと外に出た。びゅうっと吹きつけてくる風に思わずぶるりと身を震わせつつも、食べたことのないお菓子(セドリックのおすすめ)を買ったのでさほど気にならない。ホグワーツに戻ったら早速食べてみようと思っていた。
そのあとゾンコという悪戯道具の専門店へ行って、セドリックとともにいろいろな商品を見た。あまりよくわからないけれどとにかくたくさんの悪戯道具があり、結構興味深かった。
次にスクリベンシャフト羽根ペン専門店で新しい羽根ペンを買って(セドリックはOWLの学年だからか、予想以上に消費が激しいらしい)、さてぼちぼちホグワーツへ帰らなければ、と思ったときだった。

「――シア、ちょっと待ってて」

唐突にセドリックがそう言ったかと思うと、すぐさま近くにあった店へと入っていった。シアは置いてけぼりだ。

(……たぶん、動かないほうがいい、はず……)

セドリックの言葉を守り、律儀に彼の入っていった店の前で待つ。明日からは十一月だ、先ほどまでは感じていなかった寒さが足元から這い上がってくる。
それでもきちんと待ってると。

「帰らないのかい?」
「リドル」

ふわりと実体を持たないリドルが現れた。シアのそばにやってくると、そっと隣に並ぶ。

「まったく、ディゴリーはなんてやつだ。外で待ちぼうけさせるなんて」
「そう?べつに普通じゃない?」
「普通じゃない」

「これだからハッフルパフは……」などとリドルはぶつぶつと呟く。たぶんだろうけれど、彼はひとりで待つことになったシアのために現れたのだろう。そのことに、どうしてか胸の奥が温かくなった。

「リドル――」

ありがとう、とお礼を言おうとしたタイミングで店の扉が開く。そこから現れたのは、どこか焦ったようなセドリックだった。

「ごめん、シア!待たせちゃって」

シアは隣を見た。そこにリドルはいなかった。

「……大丈夫です。ところで突然入っていきましたけど、なにかあったのですか?」
「ああ、うん……これをシアに、と思って」

そう言ってセドリックは小さな紙袋を渡してきた。

「……見てもいいですか?」
「う、うん。もちろん」

若干動揺しているセドリック。言わなければよかったかな、と思いながらも、シアは紙袋の中身を取り出す。
中に入っていたのは上品な印象の小箱だった。パカリと中を開ければ、そこには――

「……シアに似合うかと思ったんだ。どう?」

ブレスレットがあった。 黄色の石と銀色の鎖でできた控えめな印象のブレスレット。
きらりと輝くそれを見つめつつ、シアはそっと口を開いた。

「――ありがとう、ございます」

どうしてか鼓動がわずかに早くなった。
小箱の中からブレスレットを取り出し、さっそく左手首につける。そして手首を見せるように顔の高さにまで持ち上げた。

「どうですか?」
「――っ、うん、すごく似合うよ」

セドリックはほんのり頬を紅潮させたあと、ゆるりと微笑んだ。