マリオネットとハロウィン

10月31日。ハロウィンだ。
といっても、授業が普段通り行われるので、仮装などをしている生徒はいない。それに地方によってハロウィンの盛り上がり方も違うので、どれだけ盛り上がってもいいのか分からないのが現状だ。

「やあ、そこ座ってもいい?」

シアが1人で朝食を取っていると、図書室で会った彼が話しかけてきた。シアは断る理由もないので頷いた。

「ありがとう」

男子生徒はニッコリと笑って席に座る。図書室で会って以来、初めての会話だった。

「いやー、なかなかタイミングが合わないよね。あれから1ヶ月近く経ってるのに、今まで話せなかったんだから」

「今までじゃなくてさっきまでです」

シアが男子生徒の言葉を訂正すると、男子生徒は面白おかしそうに笑った。シアがじっとそれを見つめていると、彼は説明する。

「いや、君の声を久しぶりに聞いたのに、その言葉がそれなんて…」

また笑い出す。シアはしばらく男子生徒を見つめていたが、興味を失ったのか食事を始めた。
それに気づいた彼も食事を始めた。
たまに彼が話し、それをシアが一言二言返事をする、という感じだ。
ふと彼が思い出したように言う。

「そういえば、自己紹介してなかったね。といっても、僕は君の名前知ってるけど」

「…そうですか」

「うん、そうなんだよ。ということで、僕はセドリック・ディゴリー。ハッフルパフの3年生。よろしく」

「よろしくお願いします」

それだけで会話がまた終わった。
しばらくしてシアが朝食を食べ終えたので席を立つ。

「じゃあまたね……えーっと、シアって呼んでも大丈夫?」

「はい」

「じゃあ僕もセドリックでいいから。またね、シア」

「はい」

淡白な返事だったが、それだけでセドリックは満足した。





授業が終わり、シアは夕食の前にトイレへ向かった。
ある種のルーティーンで、いつもこの時間に行くと決めてあった。
トイレに着くと、中には誰かがいるらしく物音がした。それがすすり泣く声だと気づいたのはすぐだ。

「………入ってもいい?」

「嫌よ!もう来ないでって言ったじゃない!」

「…わたし、ここに来るのは初めてなんだけど」

そこで泣き声の主は全く関係ない人物に怒ったことを察したらしく、一瞬声が止まった。

「ご、ごめんなさい」

「………いい。じゃあ」

「…何で泣いてるのか、聞かないのね」

シアが去ろうとしたら、それを止めるかのように再び泣いている生徒が言った。シアは空虚な瞳でトイレの扉を見る。

「興味ないし、どうせ理解できないから」

シアはそう言ってトイレの前を去った。
次はそれを止める声はなかった。





大広間につくと既に夕食が始まっていた。ハロウィンだからか、かぼちゃ料理ばかりだ。甘くて、シアはすぐに食べるのをやめた。口の中に広がる濃密な甘味が気に入らない。
みんなはまだ食べているが、シアは気にせずに図書室か談話室に行こうと、席を立った。
けれどシアが席を立つと同時に、大広間の扉が勢いよく開けられた。
おそらく大広間の扉には軽量化の呪文でもかけてあるのだろう。でなければこんなに勢いよく開かない。などとシアは場違いに思う。

「トロールが……地下室に……お知らせしなくてはと思って」

扉を勢いよく開けていたのに、いとも簡単に気を失ったクィレル教授の言葉に一瞬大広間が静まり返ったものの、誰かの叫び声で一気に混乱へと落ちた。
他のものに目をくれず、多くの生徒が大広間の扉へと向かった。教師たちも一部を除いて混乱状態だ。
それを沈めるためか、ダンブルドアが爆竹をいくつか鳴らした。その音に、一斉にダンブルドアの元へ注目が集まる。

「監督生よ、すぐさま自分の寮の生徒を引率して帰るように」

それからの行動は素早い。監督生としての責任を思い出したのか、監督生たちが自分たちの寮生を集め、列をなして大広間を出て行く。
シアもそれについて行き、ハッフルパフ寮へ戻ると誰もが安堵の息を漏らした。
シアはそれを見て、自分たちの部屋へ向かった。
疑問に思うのは、何故トロールが地下室に入ったのか。玄関ならまだ分かる。けど直接の入口のない地下へどうやって入ったのか。侵入するのならきっと正面玄関からで、なのに近くにあった甘い匂いのする大広間には行かずに、何故何もない地下室へ行ったのだろうか。

「………ま、いい」

どうせ自分には関係のないことだ、とシアは思った。