クディッチシーズンに入ったが、シアはクディッチなどに興味はなく、またシアを積極的に誘うような人なんていないため、シアは1度も観戦に行かずに過ぎる。セドリックは一応声をかけたものの、本当に声をかけただけ、という感じで、1度首を横に振るともう誘うことはなかった。
セドリックはあれ以来何かとシアを構うが、セドリックの友人たちはそれを快く思っていないようだった。
そしてクリスマス休暇へと入る。
シアは朝起きて目に入った、いつもはないものに気づいた。
黄色と黒でラッピングされた小さな箱は、黄色が多く使われた部屋によく溶け込んでいた。もし机の上になかったらしばらく気づかなかっただろう、と思えるほど同化していた。
「…クリスマス、」
クリスマスはただ周りが騒がしくなるイベント、としかシアは認識がない。もちろんサンタクロースの存在などは知ってるが、プレゼントを貰ったことがないため興味がなかった。
シアはとりあえず机に置かれた小さな箱を持ち、見回す。
「セドリック・ディゴリー」
底の方に差出人の名前として書かれたそれに、ああやっぱり、と納得した。シアにまともに話しかけるのは彼しかいない。(冷やかしで話しかけてくる生徒は増えてきたが。)
プレゼントは魔法界のお菓子だった。無駄遣いしないためにも食べたことのなかったそれは、とても斬新な味だった。
確かクリスマスプレゼントはお返しをするのが常識だったはず、と思い出し、シアは辺りを見回す。が、プレゼントにあげれるようなものはない。というより開封品を送るのは礼儀知らずだ。
「…手紙でいっか」
簡単にお礼の言葉を書けばいいだろう、と思って、シアは机に向かった。
「………あれ」
朝食から戻ると増えていたカードにシアは首をかしげる。配達が遅れたのだろうか。だがシアが関わる親しい人はセドリック以外にいない。
誰からだろう、と思いながらシアはカードに書かれた文字を目で追った。
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You are my marionette.
おまえは私の操り人形だ。
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「……なにこれ」
理解できなかった。差出人も書かれておらず、誰が送ってきたのかも、どういう意図なのかも分からない。今のところ濃厚な線といえば、誰かがいたずらとして送ったことだろう。
「………ならいらない」
どうせお返しをする必要もないのだから。そう思い、シアはその紙をゴミ箱に捨てた。
それからは特に何事もなく過ぎた。つい先日グリフィンドールの寮の点数が大きく減っていて多くの生徒がその減らした生徒に対して苛立ちをぶつけていたものの、シアは寮杯など興味はないため平穏である。
テストも終わって、何もすることがない。シアは仕方がないので図書室へ向かった。
図書室はテスト明けだからか人が数人しかおらず、いつもより静かで囁き声もしない空間はとても居心地が良かった。
「やぁ、シア」
「…………セドリック」
「テストどうだった?」
セドリックはそう言って、さり気なくシアの横に立った。目は棚に並んだ本を追ってるが、意識はシアの方への向いている。
シアは無表情に言う。
「………普通です」
「そっか。きっといい順位なんだろうね。あ、かなり遅くなっちゃったけど、クリスマスプレゼントどうだった?」
「……初めて食べたのでよく分かりません。ただ、やたらと甘かったな、と」
「あれ、甘いの苦手?」
「…私の孤児院ではお菓子なんて滅多に出ないですし、甘いのなんて更に食べないです」
シアの言葉にセドリックはすぐに返事をせず、微かに息を飲んだだけだった。どうしてだろう、とシアは思うが、すぐにその理由は判明する。
「………孤児院出身なんだ」
そういえばここに来てから1度も言ったことがなかったな、と思い出した。セドリックの声はシアの聞いたことのない種類の声だった。少なくとも、感情を理解できないシアには出せない声色だ。
「…はい。どうでもいいですけど」
「……そっか。シアは強いね」
「……強くありませんよ。わたしは、ただ普通の"幸せ"というものを知らないだけです」
普通の"幸せ"を知らないから、今が"幸せ"だと認識できるのだ。本当の"幸せ"を代償に、今を苦痛なく暮らせるのだ。
「…それでも、すごいよ」
セドリックはシアの言葉の意味を知ってか知らずか、そう言った。
「そういえば寮杯、この調子だと3位だね。毎年4位だったから、これはいいことなのかもしれないけど、それが他寮のポッターたちのおかげだと思うとね…。心の底から喜べないや」
「……それでいいんじゃないんですか?」
シアはそう言った。
学年末、結局グリフィンドールが駆け込みの追加得点をもらい1位になったことでハッフルパフは4位に転落したのだが、少なくともセドリックが気に病む必要だけはなくなったのだった。