2年生に進級した。
夏休みはほとんど自室にこもって過ごし、わざわざシアに関わるような子供はあの孤児院にはいなかった。
ホグワーツ特急を降りて、馬なし馬車に乗って城へ行く。
「あ、シア。夏休みどうだった?」
セドリックがシアに声をかける。彼の周りには友人たちがいて、彼らはシアのことを恨みがましそうな目で見ていた。
「別にいつも通りです。何もありませんでした」
「そっか、良かったね。何もないことが1番いいよね」
「はい」
本当に"何もない"日常が良かったと真に実感するのはハロウィンのことだった。
「今期から闇の魔術に対する防衛術を担当なさる、ギルデロイ・ロックハート教授じゃ」
それに多くの生徒が歓声を上げる。けれど教授たちはげんなりとしていた。それに歓声を上げてない生徒もいる。その多くはスリザリン生だったが、それ以外にも男子を中心にちらほらといた。
その後は夕食が出てきて、いつも通り賑やかになる。しかし心なしか、ロックハートの話題が多いような気がした。
そしてそれに対抗するかのように、男子たちはこぞってハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーのことを話題にしていた。
日刊予言者新聞の夕刊に載ってた情報と、ホグワーツ特急の中からその車が見えたこと、そしてこの場にいないハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリー。その3点を結びつけることは容易だった。
ロックハートの授業は散々だった。
1番初めに授業を受けたグリフィンドールはロックハートの全く授業に関係のないテストをやらされた後、ピクシー妖精を出され、結局生徒が片付けるハメになったとか。ロックハートは杖を奪われたとの噂だが、偶然だなどと言われている。
それに懲りたのか、ハッフルパフの授業ではテストの後は教科書(ロックハートの本7冊)の寸劇をする、というもので、多くの生徒にとっては平和だった。
その劇に出ることになった生徒たちは違ったが。
「ミス・ランドール!あなたには襲われる少女の役をお願いします」
初回の授業で劇に参加することになったシアはいつも通り感情をこめることなくセリフを言うだけで終わった。それに対する詩を書くのが宿題と言われたときは面倒だと思ったが、それだけでは済まされなかった。
それ以降、毎回シアは襲われる少女やら老人やらの役をやらされるのだ。
良くも悪くも純粋な生徒が多いハッフルパフ生は最初こそ普通だと思っていたものの、さすがに1ヶ月もそれが続くとおかしいと思い始めた。
「ランドール、いつもロックハート先生の相手させられてるけど、大丈夫?」
授業が終わると必ずと言っていいくらい、ハッフルパフ生にもそう訊かれるようになった。それでもロックハートに気に入られているであろうシアを羨む生徒もいた。むしろまだそちらの方が多い。
ある日、談話室で本を読んでいると、セドリックが話しかけてきた。
「やぁ、シア。ロックハート先生に好かれているようだけど…大丈夫?」
不安げな声に、意外に広まっているのだな、とシアは思った。もしかしたら、ロックハートのファンが自分のことを妬んでいるのかもしれない。
「大丈夫です。直接何か言われたわけではないので」
「そっか。シアは美人だから気に入られたのかな」
「……さぁ?まあこのまま害がないのなら別にいいです」
「うん、それがいいよね。じゃあまたね」
「はい」
立ち去ろうとしていたセドリックが唐突に立ち止まって、シアを振り返った。
「そういえば、君に1度もホグズミートのお土産あげてないね。今度あげるよ」
「……ありがとうございます」
シアから初めて聞いたお礼の言葉に、セドリックは驚きながらもはにかんだ。シアは相変わらず無表情だったが、それでもお礼を言われるのは嬉しい。
「どういたしまして」