マリオネットと友人

クリスマス休暇が近づいて来た。今年もホグワーツに残ることになるだろう、とシアは思いながら日々を過ごす。
どうやらグリフィンドールの1年生が石にされたらしい。それがあの壁に書かれた継承者の仕業だともっぱらの噂だ。実際彼はマグル生まれらしかった。

「ミス・ランドール!」

シアは授業終わりにロックハートに止められた。多くの生徒がそのことを訝しげに思っている中、ロックハートが次の言葉を紡ぐ。

「あなたはあまり友人がいないと聞いています!どうです?私に相談してはいかがでしょうか?たちまち人気者になれますよ!まあ私ほどにはなれませんが」

ウインクをして、無邪気な笑顔を振りまくロックハートに、話を聞いていた生徒はげんなりした。シアだからいいものの、普通の生徒だったら「友人がいない」と言われたら傷つく。そのことに気づいた生徒は皆一様にロックハートに対して軽蔑した表情を向けた。けれどロックハートは気づかない。
シアが返事をする。

「別に友人なんていなくてもいいです」

「"ウソ"でしょう、それは!あなたは寂しがってる。ええ、分かりますとも。あなた自身が分からなくとも私は分かってます。心の奥底であなたは一人ぼっちだと嘆いている。ああ、かわいそうですね。どうです?私に話してみては?ああ、そこの生徒たち。彼女の負担になるので出て行ってくださいますか?」

1人の男子生徒が早足で出て行ったのが始まりで、その後続々と生徒たちが出て行った。その様子にロックハートは満足気に微笑む。

「ああ、そこのあなた。扉を閉めてください」

「はい!」

語尾にハートがつきそうな勢いで女子生徒が返事をし、そそくさと教室の扉を閉めた。簡単には出してくれないだろうな、とどこかぼんやりとシアは思いながらそれを見つめていた。
扉が閉まると完全な密室で、ロックハートがシアに近づく。

「さぁさぁ、話してみてください。私とあなた以外誰もいませんから」

「………ロックハート教授、わたしは今の生活に満足してます。だから別にいいです」

「なわけないでしょう!あなた笑わないじゃないですか!つまり満足してないのですよ!」

チッチッチッ、と指を振りながら言うロックハートに、シアは意外と見てるのだな、と感心した。どうやらそこはちゃんとしているらしい。
けれど逃げ出せない、という状況には変わりがない。
シアの話を聞かずに自分の妄想をひたすら話すロックハートに、やっぱり生徒のことを見ていなかった、と思った。自分の都合のいい部分だけを見て、そして自分の都合のいいように解釈し、結果それしか信じなくなるのだろう。まるでグリフィンドールだ。ただ明らかにグリフィンドールの方が良識的であるが。

「寂しいけれど言いたくないのですよね。えぇ、分かりますとも。私にもそのような友人がおりましたから。彼女は私に話すと吹っ切れたようで……」

ぺちゃくちゃとロックハートは自らの妄想をひたすら話し続ける。そろそろ大広間に行きたいのに、と思いながらも解放してくれない。もしかしたらロックハートの話す内容を認めないと解放してくれないのかもしれない。それはそれで面倒だ。
その時、教室の扉が開いて、外の喧騒が大きくなる。

「先生、ごめんなさい。彼女困っているようなので」

セドリックは急いでたのか、息が荒い。

「ミスター・ディゴリー、私は彼女の悩みを聞いて……」

「『友人がいない』とおっしゃったそうですね?少なくとも僕は彼女の友人のつもりだったのですが」

「ミスター・ディゴリー?あなたは彼女と話してないじゃないですか!」

「話してますよ。あまり関わることはないですが」

「それを友人だと言えるのでしょうか?」

セドリックは言葉につまる。確かに他の友人よりシアと居る時間は少ない。自分が友人だと思っていても、彼女はそう思ってないのかもしれない。そんな不安に囚われる。

「ああ、ミス・ランドール。あなたは彼の中途半端な態度により寂しさを大きくしていたのですね。ええ、分かりますとも。さぁ、」

「ロックハート教授。少なくともわたしはあなたよりセドリックの方が近しい間柄だと思っていますが。何故セドリックに話さないことをあなたに話さなければならないのでしょうか」

シアは言葉を遮ってそう言い、ロックハートには目もくれずセドリックの手を掴んだ。

「行きましょう。わたしは寂しくなんかありません」

一応ロックハートに一礼をしてシアは去る。セドリックは慌てて彼女を追いかけた。
いつの間にか教室の前には野次馬ができており、その多くがハッフルパフの男子生徒だ。シアが通ろうとすると、彼らは道を開けた。
しばらく歩いて人目のつかないところへ行く。

「ありがとうございました。セドリックが来てくれたおかげで解放されました」

「本当?ならいいけど……」

セドリックの言葉は歯切れが悪い。ロックハートに言われたことを気にしているのだとシアはすぐに分かった。

「………ロックハート教授の言葉を信じて、わたしの言葉を信じないんですか?」

「え?」

「わたしはロックハート教授より──いえ、誰よりもあなたの方が近しい間柄だと認識しています。それでいいでしょう?」

シアの言葉にセドリックは目をぱちくりさせていたが、しばらくして理解したのか笑った。

「ありがとう。だったら次からは僕を友人と言ってね」

「分かってます」

シアは笑顔を浮かべることはないが、それで良かった。