「今日はかくれんぼです」
骸さまが発した言葉と同時にその場にいた全員がピタリと動きを止め、そして弾かれたように散り散りに駆け出した。無論私も拭いていた皿を放り出し身を翻して窓枠に足を掛けて勢いのまま飛び降りる。
こういう時の骸さまは本当にどうしようもなく退屈しているらしい。
その度に巻き込まれる私達は必死になって逃げ惑うのだが、その姿を嘲笑いながら眺めてはじわりじわりといたぶるように時には幻術を交えて追い詰めてくる骸さまの底意地の悪さといったらもう…。
私は前回開催された鬼ごっこの時に目をつけていた隠れ場所を目指しヘルシーランドの森の中を駆け抜けている最中だ。
ある木の上にちょうど人ひとり分くらい隠れられそうなスペースを見つけていた。暫くそこに身を隠しやり過ごそうと決めて走るスピードを速めた。
*
木の上によじ登った私は息を潜めて身を隠している。
時折骸さまに見つかったのか敷地のどこかで悲鳴が聞こえてくる。半数はもう見つかったようだがまだまだ気は抜けない。しかし暖かな日差しについうとうとと眠りそうになってしまう。微睡んできた意識に首をふって抗おうとするがそれでもすぐに瞼が落ちてきてはまた開くということを先程から繰り返している。
少しくらいならという甘い囁きと相手は骸さまなのだから死んでも目だけは開けておけ。出来ればすぐに逃げ出せる体勢は常にとっておけ、という相反する内なる自分の声に耳を傾けたり傾けなかったりしている間にどんどん周囲の音が遠くなってゆく………おやすみなさい。
*
不穏な物音が耳元の近くでした。ぱちりと目を開くと骸さまの武器が深々と木に突き刺さっている。あと数ミリずれたら私の顔面に深々と突き刺さっていたであろうその武器にひやりと背筋に冷たいものが走った。緊張した身体が周囲の状況を確認しようとぎこちない動作で耳をすませようとしていると「見つけましたよ」というこの世の終わりともとれる台詞が聞こえてきた。
そしてこれまたぎこちない動きで声のした方を確認すると朗らかに笑う骸さまが木の下で私の方を見上げていた。
「降りてきなさい。君で最後です」
結局みんな見つかってしまったのか。
木に突き刺さっていた骸さまの武器を抜き取り下へ投げると難なくキャッチされた。ちっ。そして今度は私が木の上から飛び降りると骸さまが両手を広げて待ち構えていた。ちょっと恥ずかしいなこれ。
『渾身の隠れ場所をよくぞ見つけましたね』
「前回千種が隠れていた場所ですから。また誰か身を隠すだろうと思ってそのままにしておいたんですよ」
マジで性格悪いな骸さま。クフフと楽しそうに声をあげる姿にがくりと脱力する。
『それでみんなはどうしたんですか?』
「買い出しに行かせました」
『えっ。それなら私も行きたかった…』
この前MMのつけていたマニキュアがとても可愛い色をしていて欲しいと言ったら「つけてもはみ出しまくりのあんたにゃ10年早いわよ」と笑われた。ちくしょうMMめ。でもその後、足の指に塗ってくれたのは嬉しかった。だから練習しようとドラッグストアで千種にねだろうと思っていたのだが……後でクロームにメールして頼むか。
「まあ、最後まで残った君には特別報酬です」
『何かくれるんですか?』
珍しいことこの上ない。
骸さまに手を差し出して待っているとどさりと木の幹に下ろされた。そして覆い被さってくる骸さまにぱちりとまばたきをひとつする。
『え、ふざけてるんですか?』
「至極真面目です」
『うーわぁー…』
「嬉しいでしょう?僕と一緒に過ごせて」
『自分で仰るのはどうかと思います。というより皆帰ってきちゃったらどうするんですか?』
「大丈夫です」
『ここ、外なんですけど…』
「大丈夫です」
絶対大丈夫なんかじゃない。ばかじゃないの。
と続くはずだった言葉はゆっくりと近づいてくる骸さまと骸さまの骸さまによって阻まれた。