20161231
なんでどいつもこいつも揃いもそろってこんな日に珈琲なんか飲みにくるんだ。
今年のクリスマスは休みが重なっていたため大忙しだった。しかもそのまま学生は冬休みに突入したから客足は収まるどころか確実に増えている。既に今日がなんの日かわからなくなっていたりするのが現状だ。
待ち合わせ場所にしたり休憩場所にしたりランチをとったりと使う理由は様々。店としては嬉しい悲鳴なのだがしかし働く私にとっては絶叫したい気分だ。もちろん嬉しい方ではない。忙しさに忙殺されお客さんが多いから大なり小なりトラブルやクレームはあるわけでそっちに手をとられたりしていつも以上に疲れる。
全くこっちはクリスマスも大晦日も正月も関係ないってのに。 ささくれていく心にため息をひとつ吐いて振り払った。
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ちりんと大きくもなく小さくもないベルが鳴る。ざわついていた店内が一瞬呼吸を止めたように静寂を告げた。そして再びどこからもとなく活気を取り戻したざわめきにもうそんな時間かと自然と時計に目がいく。
閉店時間のきっかり30分前。
すっかり最近の日課になってしまった現象に同僚たちから向けられるにやにやとからかいを含んだ煩わしい視線を受け流しつつレジへと来る男を見る。
「いつものものを」
端的に注文を告げる唇には薄く笑みを浮かべている。
『かしこまりました』
無表情で注文を受け、マニュアル通りに温めたカップを取り出し珈琲を注ぐ。
カウンター席へ腰を下ろして窓の外をぼんやりと眺めている男の姿に色めき立つ店内の雰囲気に自然と眉間に皺が寄る。
「いいんですか、そんな愛想のない態度で」
同僚の篠崎がにやにやしながら近づいてきた。
『いいの』
素っ気なく返事を返すと更に面白そうに細められる目に苛立つ。
「結構噂になってるみたいですよ」
『知ってる』
もちろん私の耳にも入ってきていた。
おかげさまでうちの店も閉店時間ギリギリまで売上は好調だ。店長も機嫌がいい。
「閉店間際に現れる謎のイケメン…」
『はい出来た。持っていって』
言葉を遮り珈琲を乗せたトレイを突きだすと驚いたように目を丸くした篠崎を軽く睨む。
「俺が行くんですか?」
『暇そうに突っ立ってないで仕事して』
「でもあの人絶対なまえさんが持っていくの待ってると思いますよ」
ほら、と突き返されて軽く背中を押された。
恨めしく振り返るとひらひらと手を振りへらりと呑気に笑っている篠崎に彼女とケンカしろと念を送って彼の元へのろのろと足を動かした。
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『お待たせしました』
「随分彼と楽しそうでしたね」
頬杖をついて窓の外を眺めていた彼の前に珈琲を置くときに耳元でそっと囁かれる。
『そうでもないです』
「妬けますねえ」
くすりと笑いながら手を重ねてくる彼に店内の視線が集まるのがわかった。ああもう、この人は…!ぜったい分かっててやってる。
彼に向けられていた視線が今度は私にチクチクと突き刺さってくる。
居心地の悪さに耐えられず手を振り払って立ち去ろうとした際に「この話はまた後で」と落とされた言葉に頭を抱えたくなった。
それから閉店までバックヤードから出てこれなくなったのは彼のせいだ。
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