20170101

今年の冬は暖冬とはいえ、さすがに日の落ちたこの時間になると冷えてくる。吐き出す息が白く濁る。
駐車場へ向かうと一台の車へ近づき助手席へ乗り込んだ。車内は既に暖まっており、温風が顔に吹き付ける。

「お仕事お疲れ様です」
『・・・』
「今日もご機嫌ななめですねえ」

返事を返さずにいるとくすくすと可笑しそうに笑いだした彼。横目で軽く睨むと肩を竦めてから車を走らせた。

『誰のせいだと』
「君が心配なんです」
『帰りに送ってもらうのはありがたいですけど、心配してもらうような歳じゃないです』

流れていく景色に目を向けながら今日の出来事を思い出しため息が込み上げてくる。
バックヤードに逃げ込んだ後、追いかけてきた店長から散々からかわれて苦々しい思いをした。

「まあそちらの心配も勿論ありますけど、それだけじゃありません。今日も職場の彼と仲が良さそうだったじゃありませんか」
『またその話ですか!篠崎はただの同僚です。それに美幸ちゃんという可愛らしい彼女がいますから私とどうこうなるなんてあり得ません』
「それでも間違いがあったら嫌なんです」
『まさか、』
「だって僕達だって間違って出会ったようなものじゃないですか」

まあ、それは確かにそうなんだけど。
私には少しばかりどころか、だいぶ過ぎた人であることは自覚している。
どこを気に入ってくれたのかは甚だ疑問だが、お付き合いをすることになって早数ヶ月。
未だに謎は多いがそれなりにお金を持っていそうなことと、時間に都合のつきやすい職業に就いているという事くらいは把握している。
まあそれくらいしかわからなかったといったほうが正しいのかもしれないが。
とにかくこの六道骸さんという人は大層見目麗しくすれ違いざまに老若男女問わず100人が100人とも振りかえってしまうくらいの美貌を持っていらっしゃるのだが、なかなか嫉妬深い性格をしているみたいで篠崎やら他の男性客果ては店長にまで牽制してくるのだからほぼ日常的に繰り返されているこのやり取りは最早テンプレート化していると云えよう。
むしろ私なんかより骸さんの方が女の人をほいほい引っかけているような気がするのだが、口にしたら怒られそうなのでそっと胸の内におさめている。

「何か食べたいものはありますか?」
『んー。今日はどこも忙しそうなんで軽めでいいです』

連日の集客に疲れきった身としてはできれば同業者には優しくありたい。こんな忙しい日は特にだ。
考える素振りをしていた骸さんは妙案を思い付いたとばかりににこやかな口調で視線を送ってくる。嫌な予感しかしない。

「君は作ってくれないんですか?」
『ははは。骸さんが作って下さいよ』
「僕は料理が出来ません」
『奇遇ですね、私もです』

悲しいくらいの静寂が訪れて本格的に困ってきた。時間が時間なので開いているお店も限られてくる。


「仕方ありません。年越しそばでも食べますか」
『いいですねえ。既に年明けちゃいましたけど』
「いいじゃないですか。それから参拝でもして帰りましょうか」
『…私、明日もシフト入ってるんですけど』

嬉しいお誘いだが、初詣なんか行ってたら確実に寝る時間がなくなってしまう。
たぶんこのまま骸さんといたら確実に初詣だけでは済まない。今まで求められたら断る術を全て絶ちきられてきた身としては抗える気がしない。
年中無休を謳っているうちの店は明日も通常営業だ。
元旦は休業している店も多いから必然的に客足も増えてしまうので忙しさは今日の比ではない。その上寝不足で酷使した身体で挑まなくてはならないのかと想像しただけで気分が沈んでいく。
自然と項垂れていく頭を元気づけるように軽くぽんぽんとなでられた。

「クフフ、なまえがバックヤードに引っ込んでる間、店長とは既に交渉済みです。君は明日お休みですよ。褒めてください」
『やばい。今日の骸さんいつもより神々しく見える…!』
「そうでしょう。では行きますか」

現金なもので明日が休みだと思えば疲れて怠かった筈の身体も気にならなくなった。
車内から見える景色もぼんやりとしたものからきらめきを取り戻したように輝いて見える。


ALICE+