余計な言葉はいらないよ

いやはや今日の六道くんも本気で怖かった。何が乳首が欠けても再生するらしいですよ、だ。まずは自分ので試せ……というより私に言うな。未だ痛むような気がする(もちろん気のせいだ。そんな事が現実にあってたまるか!)胸を擦りながら、鞄かけの隣にある姿鏡に映った疲れきった女の顔をなんとはなしに眺める。軽くため息を吐いて視線を横にずらすと見てはいけないものを視界の端に捉えてしまった。

『ひっ…!』

思わず叫びそうになった口元を抑えて固唾を飲んでいると「お疲れさまです、遅かったんですね」とか言いながらにこにこ笑ってよっこいしょ、とベットから立ち上がったのは先程から頭を悩ませていた六道くんその人だった。

『なななな何でうちの部屋に六道くんが?!』
「まぁまぁ」

ゆっくりこちらへ近づいて来る。に、逃げたい。しかし逃げたところで助けてくれるボスはもちろんうちのアパートになんておらず、叫んだところで駆けつけてくれるような心優しき隣人も居ない。いやぁああああ!と心の中で絶叫して頭を抱えていると気がつけば既に目の前には六道くんの姿が。

「さっきなまえさんが気を失ってしまったので続きをしようかと思って待っていたんですよ」
『けっけけけ結構ですぅー』

頼んでない、頼んでないよそんなこと!泣きそうになりながらブンブン首がもげてしまうんじゃないかってくらい横に振っていたら、六道くんの顔が僅かに曇る。

「嫌、ですか?」

嫌だ。もう一度、いやこの際何度だって言おう。嫌だ。でもそんな風に哀しそうな顔をされたらなんだかこっちが悪いことをしている気分になってしまう。とてもじゃないが嫌だなんて言えるような雰囲気じゃなくなっていた。

『………優しくしてくれたらもっと好きになります』

ああああ何てことを…!確実に今、取り返しのつかない事を言ってしまったような気がする。うわぁどうしようどうしようどうしよう。慌てる私に「仕方のない人ですねえ…でも今はそれでいいでしょう」と聞き分けのない子どもを宥めるような困った顔で微笑を浮かべている。え、何がいいんですか?なんて疑問は音になる前に飲み込まれた。



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