ルックアットミー
「間違えました」
にこりと笑いドアを締めようとすると、ガシッと指と足を駆使して捩じ込ませて遮る。
『間違ってなんかないですよスペードさん!貴女のなまえです。さぁ、二人の愛の執務室に早く入ってください。ついでに私の中にもぶち込っ…ぶっ!』
何やら喚いているが無視をして執務室を閉めてため息をつく。隣にいたジョットが無表情でポツリと一言。
「お前達、ラブラブだな」
「お前の目は節穴か」
全くなまえといいボンゴレの連中といいどうしてこうも…。そもそも私の理想とするボンゴレは、裏社会屈指のマフィアとして繁栄させイタリアを、いや世界を征する組織とすべく日々勤しんでいるというのに、ここにいる連中ときたら丸っきりそんな気はないときたボンクラ共ばかりだ。腑抜けばかりのこのボンゴレを嘆いていたらミシリと音を立てたドアに気づくのが僅かに遅れた。
『スペードさぁん!』
ドアを抉じ開け、がしっとしがみついてくる。にやにやと締まりのない顔を晒して近寄ってくる。
『じゃーん、これ見てください!綺麗でしょ』
「………え、」
なまえの左手薬指にはキラリと輝くリングがあった。
嬉しそうに見せびらかすなまえを見ているとじわりと熱いものが込み上げてきて目に薄い膜が張った。
『特注したんですよ!…って、あれ?えっ、と…』
戸惑ったようにどうしたんですか、と問うてくる。
どうしたもこうしたもない。貴女は私が好きだったんじゃないんですか!いつも執拗に追い掛けて散々私の生活を引っ掻き回した挙げ句にそれですか。なんですか、これ。
それなのに、どこかの誰かに贈られた指輪を嬉しそうにはめて自慢してくる。
馬鹿らしい。
「何でもないです」
零れ落ちそうな雫を誤魔化すように瞬きを繰り返す。
『スペードさん、大丈夫ですよ』
優しく微笑みながら私の左手を取ると優しく撫でる。
そして私の左指には彼女が付けているものと良く似たデザインのリングが輝いていた。
「え…」
『今日仕上がったばかりなんです。スペードさんの指にもぴったりで良かったです』
「えぇ…?」
『もうマリッジブルーなんてらしくないですよ』
ツン、と額を弾く彼女を見つめる。
「婚約はおろか、付き合った記憶すらないんですが…」
私の声は既に届いていないのだろう。なまえの興味はリングから挙式へと移りジョットと日取りや招待客の打ち合わせを進めていた。