火傷のように熱い思い
『どうも雪の守護者のなまえです。よろしくお願いします 』
すっと差し出された右手に僕は困惑していた。雪の守護者など聞いたことがない。
「ボンゴレの所属なんですか?」
『たぶん』
曖昧な返答に首を傾げる。
指につけているリングは紛れもなくボンゴレの紋章の入ったリングであったが、リング争奪戦の時にはなかった。その時には該当する人物が居なかったからということなのだろうか。
「それで君はどういった能力を?」
使える駒は多いに越したことはない。ううん、と少し考える素振りを見せたがぱっと顔をあげてどこか誇らしげに口を開いた。
『むっちゃ雪降らせます』
「それ以外には?」
『………え?』
「………え?」
そこで僕は後ろにいる人物を振り返った。
「沢田!!これは一体どういうことなんですか?戦闘能力も不明な女と組ませるなんて正気ですか?」
「うん。雲雀さんにも断られた」
「だったらどうして僕のところに…」
「まあまあ落ち着いて骸」
『落ち着いてください骸さん』
「馴れ馴れしく名前を呼ぶな」
『承知しました』
すっと引き下がりじっと僕と沢田を眺めている。
「雲雀さんと骸くらい実戦の経験があって、尚且つフランという問題児を見事一人前の幻術師に育て上げた実績のあるお前なら雲雀さんもなし得なかったなまえの指導という偉業も完璧にこなすだろうと俺の超直感が訴えている」
「まあ、そういうことでしたら」
数々の僕の功績を考慮した上でならその判断は妥当でしょう。しょうもない沢田の超直感もたまにはまともな仕事をする。
「それでまずは、任務に当たる前に君の力量を測りたい」
*
場所を屋外へと移した僕達3人は武術の稽古をつける時に使用している広場にいた。
「君の実力を見せてください」
『はい!』
きりりとした顔をして頷くとリングに光を灯す。その光に呼応するかのようにはらはらと儚げな雪が辺り一面降り注いでいく。しかしその儚げな様子とは裏腹に積もっていく雪の量は半端ではない。なかなかに見事なものだ。
それから雪がある程度積もった自分の足元に手をかざしてゆっくりと横へスライドさせるとかざされた場所が蠢き小さな雪だるま達が雪の中から現れた。そしてその雪だるま達がゆっくりと意思を持ったように動き出した。これは式神のようなものを使役しているのか…?だとすればなかなかに才のある人物だと言えよう。
雪だるま達が1ヵ所に集まり何やらせっせと建造している。しばらくその動きを眺めていると出来上がったのはかまくら。餅でも焼いて食べるつもりか。
かまくらの中へ進むなまえの後を追い僕達も続く。中へ入ると外のひやりとした温度とは一転して温かく感じる。
『この中は絶対の防御を誇ります。防音に優れどんな些細な音も外部へ漏らしません』
戦闘時の防御壁にもなるし隠密の会談等の場に使うに相応しいだろう。しかしこれほどの力ならば防御だけに使うのは惜しい。どうにか攻撃へと転化できればいいのだが…。これはしばらく考えねばならないようだ。
気がつけばかまくらの中には布団が一揃え用意されていた。治癒や野戦時の宿泊にも使える場所を提供できるというアピールだろうか。
布団を敷き終えた雪だるま達がひょこひょこと連なりかまくらの外へ出ていく。それと同時に入り口が塞がった。成る程、敵をこの中へ誘い込み監禁することも可能ということか。
そしてなまえを見ればすっと持ち上げられた指先では丸い和っかを作りもう一方の指は右手の和の中へ入れる動作をしている。
『密室の中で男女が行うことなんてひとつ』
「その指の動きを今すぐやめろ!」
「まあ、落ち着いて骸」
『落ち着いてあなた』
「より悪化してどうする!」
むっと不服そうな顔を隠しもせず『馴れ馴れしく名前を呼ぶなと言われました』と口を尖らせている。そういう意味で言った訳ではないことがどうしてわからないのか。
「初めての任務だからなまえさんも緊張しているんだと思うよ、ね?」
にこりとなまえに笑いかけるが当のなまえはといえば『いえ、特に緊張とかはないです』と沢田の気遣いも虚しく空回る。敢えて言わせてもらおう。ざまぁ!
「それでどうするんですか?」
沢田を見れば情けなく眉を下げている。
「どうしたらいいと思う?」
『みんなもっと私に優しくしたらいいと思います』
「どう考えてもそういうことを聞くような流れじゃないでしょう!」
いちいち話の腰を折るせいで一向に話が進まない。確かになまえの能力は秀でている。しかしそれを差し引いてでも見過ごすことの出来ない問題がひとつ。
「著しいコミュニケーション能力の欠如で僕は組めません」
「まあ、そうなるよな」
『…いけず』
「いけずじゃない!馬鹿にしてるんですか?!」
むっ、と眉を上げて唇を突き出した。
『沢田さん。私、絶対この人がいいです』
「ほら、なまえちゃんもこう言ってることだしとりあえず組んでみたら?」
『観念してください』
「ふざけるな!大体、雲雀くんの時はあっさり諦めたんでしょう。どうして僕の時は食い下がるんですか?!」
きょとんと目を丸くして、それから右手で拳を作り高く掲げた。
『目指せ、国際結婚!』
「腰掛け気分でマフィアになるんじゃない!!」
『いやぁ〜、一度正面から裸の付き合いをしてみたら相手の意外な一面を知れていい感じにまとまるんじゃないんですかね〜。よっ、色男!』
「なるか!」
「ハハハ。俺、お邪魔になっちゃうなぁ。後は二人だけでごゆっくり」
『はい。任せてください!』
「任されるな!沢田も僕に押しつけて逃げるんじゃない!!」
僕の制止の声も虚しくぽっかりと開いた出入り口からあっさりと沢田は出ていく。
『ほら、沢田さんもああ言ってくださったことですし、ね?』
両手を広げわきわきと動かす仕草がいちいち勘に障る。
近づいてくるなまえを前にして深いため息をひとつ吐き出した。
ふざけるな。