急に抱き締めたくなった
通り掛かった広場で色鮮やかに輝くそれを見た瞬間、あの娘にも見せてあげたいだなんて柄にもなく思った。
メインであろうクリスマスツリーを模した一番大きな電飾の前に立ち、携帯のカメラを構える。キラキラ輝いているその写真をメールで送る。相手はもちろん彼女だ。メールの最後の一文は軽い冗談とほんの少しの希望。来るはずなんてない。彼女の住む所からは決して近い訳ではないし。そう思いつつもなんだか離れがたくてその場から動けずにいた。
*
短い彼女の返信を読んだ後も惚けたようにぼうっとそのツリーを眺めていた。イルミネーションを見に来ている家族連れやカップルの姿も後を絶たない。こんな風に彼女と一緒に見れたら、と思ってしまう。
クリスマスにでも誘ってみようか。来てくれるだろうか。どこか冷めたところのある彼女だから断られるかもしれない。どうやって誘い出すかを延々と考えていたら時間が思ったよりも過ぎてしまっていたらしい。
冷えてきた身体も限界を迎えそうだ。そろそろ引き上げるかと思っていたら後ろからどすんと何かぶつかってきた。大方はしゃぎ回っている子供か、ツリーにばかりに気をとられ周りを見ていなかった女だろう。どちらにせよここに居るのは得策ではない。帰るかと思ったがおかしい事に気づいた。ぶつかったままだったその人物がピクリとも動かないのだ。ゆっくり振り返るとそこには先程から頭の中を占めていた彼女がぎゅうとしがみついていた。
「なまえ」
緩む頬を抑える事すら忘れ名を呼ぶとゆるゆるあげられる顔。鼻を赤くしているなまえと目があった。いつも薄く化粧をしている顔とは違いどこかあどけなさを残す顔。ペラペラのバックに、乾ききっていない湿った髪。慌てて駆けつけてくれたんだろうか。僕のために。そう思うと堪らなくなって思わず抱きしめていた。急に呼び出した事を謝る僕に『別に』とそっぽを向いて更に頬を染めるなまえ。早く暖めてあげたいと冷えきったなまえの手を引いて近くのコーヒーショップへと入って行った。
*
「遅くなりましたね、そろそろ帰りましょうか」
そう言った僕の言葉にマグカップを握りしめていた手を離して俯き気味に着いてくる。店を出たところで、くいっと引かれる上着に不思議に思いながらなまえを見ると『寒い』とぽつりと消えそうな声で呟いた。驚いて目を丸くしていると聞こえなかったとでも思ったのか再び『寒い』と繰り返す。
その言葉に僕は頭をフル回転させて近くのホテルを探し始めていた。ここが駅前で良かったとこの時ほど思った時はない。
*
難なくホテルを見つけた僕らは部屋へと入りぎゅうぎゅう抱きあってたくさんキスをしてベットへ雪崩れ込んだ。我慢の利かなくなった自身をなまえの中へ鎮めると一瞬戸惑ったような顔をする。そして恐々首へ回される腕。安心させるように優しくキスをすると回された腕に力が入る。照れ屋で恥ずかしがりやの彼女のいつもの癖だ。それを合図に動き出すと波打つ身体に翻弄され、果てた。
*
ドロドロに溶け合った後「クリスマスにもう一度来ませんか」と誘うとパチリと一度まばたきをして暫く難しい顔をして考えていた。そして彼女が小さく頷いた。頬を赤くさせて。胸の辺りから沸き上がる温かい何かに呑まれてしまわないよう彼女をそっと抱き寄せて額にくちづける。彼女は不思議そうな顔をしていた。
===
付き合っていると思っている男。