僕とあれと彼女4


それは本当に偶然だった。たまたまある任務の帰りに立ち寄った場所でばったりなまえに会った。
目が合うと彼女はあからさまにしまったという顔をして走り出した。もちろん容易く逃す訳もなく後を追うと難なく捕らえる事ができた。

「待ちなさい」
『人違いです』
「そんな訳ないでしょう…だったら何故僕を見て逃げたんです?」
『す、』
「す?」
『炊飯器のセットを忘れた気がして』

…いつからそんな面白い事を言えるようになったんですか。妙な沈黙が二人の間に流れる。
その空気を払おうと咳払いをひとつして隙あらば逃げようとしているなまえを見下ろす。

「…帰りますよ」
『嫌です』

暴れる彼女を引きずるようにして車に押し込み、そのまま車を発進させた。

「…今までどこに居たんですか」
『………』
「答えろ」
『………』
「黙りですか。いい度胸ですね」

何の反応も示さないなまえに信号が赤に変わったところで車を停止させた。彼女の顎を掴みこちらを向かせると、ギッと睨んでくる。反抗的な目に更に苛つく。

『…降ろして、ください』
「今は僕が質問しているんです」
『………』

まただ。
口を開いたかと思えば、これでは埒が開かない。

「まさか男の所に転がり込んでいるんじゃないですよね?」

そう言うとなまえは深く息を吸って呼吸を整える。そして何かを決意したような凛とした瞳でまっすぐに僕を見た。珍しい彼女のそんな表情に気持ちが荒立つ。

『今更…』
「なんですか」
『今更、こんな風にされても困ります。今まで興味すらなかった癖に』
「黙って居なくなるからでしょう。どれだけ周りに迷惑をかけていると思っているんですか。ボンゴレ達だって必死に貴女を探しています」
『ほら、』

僕の言葉に嘲るように笑う彼女に自然と眉間に皺がよる。

『骸さんは心配すらしていない』
「それは…」
『周りが騒ぎ立てて体裁が悪かったから連れ戻しただけなんですよね』

分かっています、と言いながら膝の上に置いていた見覚えのない鞄を漁りはじめた。

『でも丁度良かったです。いつまでもこのままじゃ駄目なことくらい分かってました』

鞄の中から封筒を取り出して差し出す。

「なんです、これ」
『離婚届です。私の欄は全て記入しています』

清々しい顔で差し出されたその白い封筒に思考が止まった。

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