僕とあれと彼女5


クラクションの音で我に返る。信号は既に青に変わっていた。白い封筒から視線を外し、急いで車を走らせる。車内は重苦しい沈黙で支配されていた。

『…あの、』

暫くたった頃だった。どこか戸惑ったように彼女が口を開いた。

「なんですか」
『こっちは家の方向じゃないです』
「知っています」

僕の言葉に大きく目を開き慌てたようにシートベルトに手を当てる。

『車を停めてください!』
「ここで降りて家までどうやって帰るんです?」

高速のゲートが見えてきた所で一瞬不安そうに瞳を揺らしたが、すぐに僕を見て慎重に口を開いた。

『どこに行くんですか?』
「貴女とじっくり話し合わないといけないと思いまして」

誰にも邪魔されずにね、と付け加えると顔を青くしてぐっと唇を噛み締めている。

「そんなに力を入れては切れてしまいますよ」

唇をなぞり口を開かせると、ぬるりと指先が湿る。すると勢いよく手を払い除けて睨まれた。

『…ここで、いいです。だから降ろしてください!』
「嫌だと言ったら?」
『…お願いします』

泣きそうに顔を歪めるなまえを見ないふりをしてスピードを上げていく。
流れていく景色を呆然と見つめていたが諦めたのか段々静かになった。

*

「着きましたよ」
『………』
「ほら、降りなさい」

こちらを見ず、ずっと窓の外を睨んでいる。

「全く…仕方ないですねえ」

動く気配のないなまえに、車を降り助手席へと回る。ドアを開けて抱きかかえようとすると急に暴れ出した。

『い、いです』

僕の手を再び払い除けようとしていたが、こちらとてそう易々と同じことに付き合ってやるつもりもなくその手を掴みあげた。苦しそうに顔を歪ませて、それでも身動ぎして僕を拒もうとしている。

「また逃げられては堪りませんから」
『もう逃げません』

悔しそうに呟くなまえに息だけで笑い抱きかかえて車から引きずりだした。

『どこですか、ここ』

恐々と、それでいて警戒しながら目の前の建物を眺めているなまえに首を傾げる。

「おや、君は来たことありませんでしたか?」
『…はい』
「僕の所有する屋敷のひとつです」

そう言うと丸く目を開き、それから『そうですか』と弱々しく俯いた。

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