僕とあれと彼女7


「いい加減泣き止みなさい」
『なんで、こんな事するんですか』

赤く腫らした瞳を向けられた。そっと目尻に指を這わせると、びくりと身体が強ばる。面白くない。
先程からずっとこんな調子だ。身体を繋げている最中だというのになまえから僕に触れてくることはなかった。以前ならば躊躇いがちではあったが背中に回されていた筈の腕。それが今日はぎゅっと胸の前で固く握りしめ、早く終わることを待っているだけのように思えた。そんな彼女が妙に腹立たしくて腕を掴んでほどこうとしたが硬直したようにびくともせず結局は諦めた。

「…少し落ち着きなさい」

未だ嗚咽混じりに泣き続けるなまえを残してバスルームへ向かう。シャワーの蛇口を捻るとヘッドから湯気と共に熱い湯が降り注いでくる。目を閉じてそれを頭から浴びると、じわりと湯が触れた部分から解れていくようだ。

さて、これからどうするか。

あんな紙切れ一枚で全てを終わらせようだなんて全く馬鹿げている。
しばらくはこのままここに滞在するのもいいだろう。
ボンゴレ辺りが何か勘繰るかもしれないが任務続きで疲れたと言って連絡を絶てば、いつもの事だといずれは諦める筈だ。
その間どうにかしてなまえを宥めて家に連れ帰ればこの騒動も終結する。
大人しく従順で扱いやすい娘だと思っていたが、今回は随分と煩わせてくれる。
これもあの亡霊の入れ知恵なのか。
遠い昔に滅した存在の癖にいつまで人の邪魔をすれば気が済むのだ。そう思うと忌々しいが、まあいい。幸い今は邪魔される心配もないだろう。

ふと水音に紛れてカタンと物音が聞こえてきた。


まさか、

シャワーを止めて部屋へと戻るとベットはものけのからでシーツがぐしゃりと乱れていた。

「なまえ?出てきなさい」

声を掛けるが返事がない。

「なまえ!」

僕の声は静かな部屋へ虚しく響くだけ。


また、逃げられた。

ぎりっと奥歯をかんで、タオルを掴む。ポタポタと拭いきれなかった水滴が絨毯を濡らしていく。

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