20161224


12月に入り壁掛けのカレンダーを剥がして眺めたところで項垂れた。ああ、前回の三連休の意味がようやくわかってしまった。 出来れば知りたくなかった。いや、特に予定なんてものは悲しいくらいないのだけれど。でも羨んでしまうのは仕方がないでしょう。
週末にあたる23日からクリスマスの25日にかけて皆さん家族や恋人と過ごす為にこぞって休暇を申請したんだろう。
私みたいな予定もないぼやっとしたお一人様にその前倒しとして割り振られただけに過ぎなかったというわけか。
でも前回の休みだってクリスマスに負けないくらい楽しくて素敵な時間を過ごせたんだから。結局、彼も仕事との折り合いがついたのか三日間付き合ってくれたし。
しかしあれから忙しくなったのか全く会えていない。何だかんだで宿泊費諸々全部支払わせてしまったし改めてお礼も言いたかったんだけど、言いそびれたまま2ヶ月が過ぎていた。何度か部屋を訪ねてみたが不在だったみたいで会えず仕舞いだった。
こういう時の為に連絡先でも聞いておけば良かったなあなんて反省しつつ、でもやっぱり聞かないだろうとどこか他人事みたいに感じてしまうのは薄情なのか臆病者なだけなのか。
ぐずぐずと答えを出せずにいる私は今日も返事のないインターフォンを鳴らすのだった。

*

「え、君は休みじゃないんですか?」

久しぶりにエレベーターの前でばったり会った彼はいつものごとく酷く疲れているようだった。血色のよくない顔色に、あの日のお礼だけでも伝えて今日のところは立ち去ろうと口を開きかけたところでそのまま塞がれてしまった。
それから部屋に連れ込まれお帰りなさいの挨拶もそこそこにベットへ押し倒されて一息ついたところでクリスマスの予定を聞かれているという訳だ。

『うん』
「クリスマスですよ?」

非難めいた視線に思わず苦い笑いがもれる。

『そうだね』
「そんなあっさり…僕が掛け合ってみましょうか?」
『気持ちは有り難く受け取っとくけど大丈夫。それにこの前のお休みで貴方と一緒に過ごせたんだから私はそれで充分』
「その言い方は狡いです。何も言えなくなってしまう」
『そう?』

むうっと難しい顔をして黙りこんでしまった。
もしやイベント事を大切にする人なのか。意外な一面を垣間見たような気がする。

『そっちは仕事どうなの?』
「いくつか出席しなければならない集まりもありますが、基本的にその辺りは休みにしようと思っています」

自主休暇というやつです。と悪びれなく言ってしまえる辺りさすがとしかいいようがない。

『いいなあ。』
「君も休みなさい」
『んー?今から申請しても無理なんじゃないの』
「じゃあ急に病気にでもなりますか」
『あはは』
「冗談じゃないですよ。僕だけ休んでどうするんですか」
『ゆっくりご自愛ください』

冗談めかして言うと「だったら尚更君も必要でしょう」とか嬉しいことを言ってくれるから勘違いしそうになる。

『すごい、なんだか口説かれてるみたい』
「口説いてるんですよ。君は僕を何だと思ってるんですか…」
『嘘でも嬉しいなあ』
「嘘じゃありません。大体好いてもいない女の為にわざわざ休み返上で2ヶ月も黙って働かされたりなんかしませんよ。ちょっと連絡を絶って行方をくらませたくらいでねちねちと・・・なんで顔を隠すんですか」
『だめだめ、今見ないで!』

たぶんすごく変な顔をしている。入ってきた情報が多すぎて、それより何より仕事の都合はついていたんじゃなかったのか。私のせいで休ませてしまった。うわぁ。どうしよう。でもそれでもどうしようもなく嬉しく感じてしまう自分がいて感情がセーブ出来ない。落ち着かせようと懸命に努めているとふに、と耳たぶを触られた。

「耳が真っ赤です」
『…触らないで』
「嫌です」
『じ、じゃあせめて顔だけは見ないで』
「嫌です」

くつくつと楽しそうに喉を震わせる気配にぎゅと目を瞑る。瞼に赤色が広がり咄嗟に腕で顔を隠したがもう手遅れなのは分かっている。分かっているけどこの手は私の最後の砦なんだから離すわけにはいかない。

「なかなか可愛い反応をしてくれますね」
『もう、』
「…今から仕込んでも間に合いませんか。」

残念です、という言葉にざわりと胸が騒ぐ。

『なにを、』
「君を休ませる方法ですよ」

耳元で囁かれる甘い声に気をとられていると下腹部からぬちゅと不穏な音と侵入してくるものにびくりと身体が震える。待って、さっきしたとき外して捨てたはず。

『え、ちょっと…』
「いやークリスマス楽しみですね」
『えっ、や、』

慌てて身体を離そうともがいていると不意に落とされた言葉に動きが固まる。

「ねえ、なまえ?」

なんで私の名前をしってるの?
どくどくと急速に動きを速める心臓に比例して更に混乱していく頭に顔を隠すのも忘れ茫然としていると恐いくらい綺麗な微笑を浮かべている彼に気がついた。


一体、この人は誰なんだろう。



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