手首:欲望*

※よくある話(社会人パロ)


回ってきた処理済みの書類をファイリングしようと保管庫の鍵を総務課で借りてきて鍵穴に差し込んで、カチャリと小さく音を立てて施錠が空いたのを確認してからノブを回す。ドアを開くと籠った空気にぞわりと頬を撫でられた気がして眉をしかめつつ室内の電気を付けて申し訳程度にポツンとひとつ置かれたテーブルの上に書類の束を置いた。
一枚一枚確認しながら項目ごとに分類していく。人が居ないせいか普段よりゆっくりと時間が流れていくような気がする。遠くで聞こえてくる電話のコール音やざわめきがまるで非日常的なもののように感じられ、それと同時にどこかで体験したような懐かしさに襲われた。どこでだろう。この感じ。ひとつひとつ振り分けながら過去へと記憶を遡る。そうか。放課後の教室だ。まだ学生時代の中に身を置いていた頃に体験したあの特有の空気に似ているのだ。
全ての分類を終えて、後は綴じていくだけだというところで保管庫のドアが開かれた。普段あまり人が来ないのに珍しいと出入口に視線を送るとファイル片手に部長が入ってきた。
少し驚いたように目を丸くして「君が鍵を借りていたんですね」とドアを閉めてコツコツと靴を鳴らして近づいてくる。

『探し物ですか?』
「ええ、今度使うプレゼン用に過去のデータを比較資料として添付しようと思いまして、君はファイリングですか。お疲れさまです」

私が机の上を占領してしまった為、背後に設置してあるキャビネットの上に持って来たファイルを置くと「少し狭くなってしまいますが、すぐに終わりますので」と申し訳なさそうに笑いながら資料棚の方へと姿を消した。

しばらく無言で作業が進む。
時折ページを捲る音が聞こえてくるのみで穏やかな時間が二人の間に流れている。
綴じ終えた資料に項目と日付を記入して棚に並べようとした時だった。
背後からぴたりとくっついてきてすりすりと内腿を撫でられた。やらしい手つきでゆっくりと上下したあと中心に触れて布越しに指を押し入れられればそこはじわりと熱を孕む。
それに満足したのかスカートをたくしあげて下着ごと一気に下げられた。
反射的に振り返ると緩く口角を上げて笑む部長がいた。

『ちょ、誰か来たらどうするんですか!』
「大丈夫ですよ」

その根拠はどこからくるんですか。
こちらの心情などお構いなしにどんどんエスカレートしていく行為に自然と口からは熱を持った吐息がこぼれる。

「舐めてください」

緩急をつけて行われる愛撫にもどかさを感じていると、机にしがみつくようにしていた私の前にファスナーを下ろして取り出された部長のをぐっと唇に押しつけられた。それに薄く口を開くと独特のあの青臭い匂いと少ししょっぱい味が口の中に挿し入れられる。
もごもごと口を動かして部長のものを扱いていく。
しばらく口で奉仕していると優しく頬や頭を撫でていた手が離され、ほんの少しの寂しさを感じた。そして頭上でピリピリと破く音が聞こえて思わずそちらへ視線を向けると何故そんなものを常備しているのかと驚いた。

『本気ですか?』
「もちろん」

不敵に、でもそれが憎たらしいくらい様になっている。
立たされて机の上に寝かせられると、ひやりとした固い机の感触に身体が震える。
やっぱりやめましょうよ、と言おうとしたがストッキングとショーツ越しに見えた部長の顔に開きかけていた口をつぐんだ。
いつもより熱っぽい瞳をしてじっと私を見下ろしている。まさか興奮しているのか。いや、でも…。うだうだとした私の考えを振り払うかのように部長の熱く滾ったものが私の中を貫いた。

*

「本当は仕事の邪魔をするつもりなんてなかったんですよ。ただ君の後ろ姿が寂しそうにみえたのでつい触れてしまったんです」
『それは、私が可哀想ってことですか?』

部長にまさかそんな風に思われていただなんて。惨めすぎる。まるでひとりでドキドキして馬鹿みたいではないか。高揚していた気分が嘘みたいに退いて頭のてっぺんから爪先まで冷たく私を蝕んでいく。

「いいえ、僕が君に触りたくなったただの口実です」

軽やかに笑う部長に小さく『さいてい』と呟くと動かすのも億劫になっていた腕をとらえ手首に唇を押しつけられた。じわりと伝わってくる熱が冷えてしまった身体を溶かしていく気配に泣きそうになって、でも視線を反らすことも出来ずにぼんやりと部長の顔を見ていた。

「ええ、僕は最低な人間ですから」

ひっそりと笑う部長に私は何も言えなくなってしまう。

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