掌:懇願
※幼なじみ
『むっくん愛してる。結婚しよう』
突然大真面目な顔をした幼なじみにじっと見つめられた。
「いきなり何ですか」
『幸せにするよ』
そっと手に持っていたペンを机の上に置き僕の手をとり掌へとくちづけた。
それにフッと笑って机の上に視線を向ける。
「そうですね、とりあえずその目の前のエントリーシートを書き上げてから考えましょうか」
『いやぁあああ!現実を突き付けないで!』
「逃避するのはいいですけど、僕を巻き込まないでください」
『一緒に幸せになろう…?』
「就活が嫌で安直に身近にいる人間に結婚を迫る女なんて願い下げですよ」
『安心して。骸の女性関係には口出さないから』
「人の話を聞け!」
ばんっとテーブルを叩くとぱちぱちとまばたきを繰返す。
「大体なんでうちに来てそんなもの書いているんですか?!」
『だって骸はもう内定貰ったんでしょ?それも大企業に。だったら受かった人の近くで書いたらご利益ありそうじゃん』
「何ですかそれ。それに僕だって別に好きでいく訳じゃありません」
『じゃあ変わってよ』
「馬鹿を言うんじゃありません。なまえだけは絶対ダメです」
『なんでよ?』
「それは…」
あんなマフィアの巣窟に誰が好き好んで行くものか。それに仮に一般人で何も知らないなまえが間違ってボンゴレに入ったとしても任務に失敗した暁には海の上に身元不明の遺体が浮かぶだけだ。一瞬浮かんだ映像にゾッとして慌てて振り払う。何を考えているんだ僕は。
『もーちょっとは現実逃避に協力してくれてもいいじゃん』
ブツブツと文句を繰り返しながら再びペンを握って記入している。
『あ、ねぇ!ケーキ食べに行こう!頑張ったら甘いもの食べたくなっちゃった』
「ほう。僕の目にはまだ名前しか書いていないように見えますが」
『名前書いてる間に精神的苦痛を負ったの』
「舐めてるんですか?」
全くこんなのと結婚だなんて冗談じゃない。
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