首:執着
※梅ガム
最初は祝うつもりだった。ちゃんとプレゼントも用意していたしお肌のお手入れもいつもより丁寧にしていた。
でも黒曜高校に通う友人から早朝に届いた写真つきのメッセージを見てなんだか急にそんなことをしている自分が馬鹿らしくなった。
私が思っていたほど骸は私のことを好きではないのかもしれない。
添付されていた写真を消そうとしたが、もう一度だけ写真をよく見てみる。
なんで楽しそうにしてんのよ、私の知らない女の子と一緒に笑いあったりなんかして。私なんかより全然可愛いし、お似合いじゃんか。
今までそれなりに彼女とか居たんだろうなとは思っていたけどまさか同時進行されているとは思わなかった。
浮気になるのか?それとも私が浮気相手なのか。どっちにしろ面白くないし、こんな写真を今日送ってきた友人を恨めしく思う。
*
放課後、やはりというべきか骸は私の元にやって来た。ニヤリと口の端をつり上げてさも何か言うことがあるでしょう?みたいな顔をして座っている私を見下ろしている。それなら、と思って鞄のなかに入っていた今朝コンビニで買ったばかりのチョコレートを手渡すと案の定騒ぎだした。何が貢いでません、だ。思いっきりあの写真の子に貢いじゃってるんでしょうが!それに本当は一番に祝いたかった。なのに骸は可愛い女の子に呼び出されたらホイホイ着いていっちゃうんだ。ぎゃあぎゃあ騒いでいる骸を見ているとぼんやりと視界がぼやけ始めた。やばい、私泣きそうになってんじゃん。骸の前でだけは泣きたくない。鞄を掴んで立ち上がるとぽかんとした顔をして私を見ている。
『…だから余計に嫌なんでしょ』
そう言い残して骸の前から立ち去った。いつもだったらすぐに引き留めてくるのに今日に限ってそんな素振りもない。
もう追いかけてきてもくれないんだ。なんて身勝手なことを思いながら玄関まで走って、あがった息を整えながら上履きを履き替えようと下駄箱に手を伸ばしたところでバンっという大きな音に遮られた。
「…何を拗ねているんですか。」
追いつかれた。骸は私と違い息もあがっておらず、平然としていてじりじりと追い詰めるように距離を詰められた。
心なしか骸が手をついた下駄箱が骸の手の形にへこんでいるような気がする。
『拗ねてない』
「だったらどうして先に帰ろうとするんですか。何か用があるならそれはそれで構いません。せめてその時間までは一緒に居たいです」
『今日は骸と一緒に居たくないの』
「僕はなまえと一緒に居たいです」
『嘘つき』
「嘘ではありません。」
少し困ったような顔をして、触れてこようとしてきたが思わず身体を引いて避けてしまった。宙に浮いたままの手が気まずい。
ぎゅと掌を握りしめて腕を下ろし、優しく宥めるように口を開いた。
「何かあったんですか?」
『何も…今日はちょっとそんな気分じゃなくなっただけ。ごめん』
「僕がどれだけ楽しみにしていたのか君だって知っている筈でしょう?」
『…知らないよ、そんなの』
ああ、かわいくない。本当はこんな面倒なこと骸に言いたくない。もっと平気になってからだったらちゃんとお祝いも出来ると思うのに、今の私じゃ到底無理だ。
とうとう骸の顔もまともに見れなくなって俯いていると「わかりました」と冷たく言葉が落とされた。
こんな急に約束を反古にして機嫌が悪くなるような女なんて骸だって願い下げだろう。こんなことで別れてしまうのか。初めはただの罰ゲームでの告白というふざけたものだったが骸と一緒に過ごすうちにいつしか自分が骸のことがこんなにも好きになっていたのかと思うと不思議だ。しんみりとした空気に感化されそうになって、そこではたと気づく。あれ、ちょっと待って。私、全然悪くなくない?というより、なんで浮気されてんのに私が悪いみたいになってんだ。浮気されてんだから、機嫌のひとつやふたつ悪くなるわ!沸々とお腹の辺りが怒りで熱を帯びてくる。何か一言いっておかないと気が済まない気がする。
「では勝手にいただきますね」
『な、に…?』
骸も怒っているのか強引に腕を掴んで引っ張られた。ちょっと待って。怒るのは私の方でしょう。咄嗟に抵抗しようとしたけど全然敵わない。そういえば、骸って本当は怖い人だったんだっけ?私の前じゃ今までそんな素振り見せたことなかったけど、それは本当のことなのかもしれない。だって今は声も掛けれないくらい雰囲気が怖い。
黙りこんだまま腕を掴まれて連れてこられた先は、今は使われていない空き教室だった。乱暴に机の上に押さえつけられ首筋に吸い付き舌を這わせてくる。ぞくりと肌が粟立った。
『ちょ、ちょっと…!』
口づけようとするのを慌てて手で塞ぐと、面倒くさそうに眉をしかめた。
「何が気に入らないのか知りませんが、僕は僕なりに楽しませてもらいますからお気になさらず」
『なんでそんなに怒ってるの?』
「機嫌が悪いのは君のほうでしょう?」
『だって、浮気!』
「は…、はぁああ?浮気?!君が?僕に隠れて?ふざけないでください。殺しますよ」
『違う。私じゃない、浮気してるのは骸でしょ!』
「なっ…!なんで僕が浮気してることになってるんですか?!」
『だって、ほら!』
骸を突き飛ばして鞄の中から取り出したスマホの画面を突きつけると、ぱちりとまばたきをひとつしてじっと画面を見ている。
「あの…これが、どうかしましたか?」
『ばか!あんたが可愛い子と一緒に楽しそうにしてんじゃん!』
ほら、と女の子を指差すと吹き出して笑いだした。え、なに?というよりその笑い方が妙に癪に障るんだけど。
「クフフ、彼女は友人のひとりです。そういった関係ではありません」
『口では何とでも言えるでしょう!』
「そう言われましても…」
困ったように眉を下げてぎゅうと抱きついてくる。ポンポンと子どもをあやすように背中を軽く叩かれると強張っていた肩の力が抜けていく。骸の肩口に額をつけて目を閉じる。このままうっかり寝てしまいそうだ。
『でも、私が一番最初に会っておめでとうって言いたかった…』
するりと口をついて出てきた言葉に骸の手が止まり身体が離された。咄嗟にしがみつこうとして骸を見上げるとしげしげと見つめられていた。
「君はたまにとてつもなく可愛いことを言いますね」
『うるさい!』
悪態をついている筈なのに骸は嬉しそうで、その顔にそわそわと落ち着かなくなる。変な顔になってるのを見られたくなくてまた骸の肩に顔を埋めれば「ありがとうございます」と優しく耳に響く声に胸が苦しくなってそっと骸の首に唇をつけた。
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