くすんだピンクとネイビーブルー*

どろどろと伝う汗が気持ち悪い。変な体勢のせいか身体のあちこちが悲鳴をあげている。それなのに骸さんは止める様子もなく執拗に奥深くへと打ち突けてくる。

*

「君も参加するんですか?」
『もちろん』

非難がましく見つめられる瞳ににっこりと笑って答えると長いため息と共に眉間に指を当てて考え込んでしまった。
そうは言っても職場の付き合いなのだ。仕方あるまい。 ま、年中無休を謳う我が社で全員参観とはさすがにいかなかったもののわりとゆっくり出来る日に有志で集まって海辺でバーベキューをしようという話が出ていた。
最近はみんなと集まって何かすることもなく久しぶりに集まって騒ぎたいと思っていたし丁度シフトも休みになっていたので参加することにした。店長と発案者兼幹事が変な顔をして止めてきたがそこはスルー。

それが2週間前。

そして「明日のお休みはどうしますか?」と今日のお迎えにきた骸さんに聞かれたので、バーベキューに行くと伝えるとぱちりと瞬きをひとつして信号待ちしていた信号の色が変わったことを確認してからアクセルを踏み込んだ。

『お店のみんなと海にバーベキューへ行くんです』
「…それは強制参加なんですか?」
『希望者だけですね』

そこで先ほどの会話に繋がる訳なのだが、そこまで思い悩むことはないだろうに。というより今は運転に集中して欲しい。

「あのふたりは何をやっているんですか…」

苦々しく吐き出された言葉に首を傾げていると「いえ、なんでもありません。」と言ったきり黙りこんでしまった。
話し掛けづらい雰囲気に大人しく窓の外の流れていく景色を見つめていたが家の方向とは違う道を走っていることに気づき、このままいつものようにドライブへ移行しそうな気配に慌てて口を開く。

『あの、明日の準備とかもあるんで今日は早めに帰りたいです』
「………」

横目だけでじろりと一瞥した後、すぐに視線を前に戻した。それに内心溜め息をつく。言いたいことがあるならはっきり口にすればいいのに。
骸さんはたまにすごく冷たい目をする時がある。怒っているのかと思ったりもするんだけど、口調はいつもと同じ柔らかいもので柔和な笑みの奥に全てを隠してしまう。
だから私はその度に骸さんが何に対して怒っているのか、私の態度のどこに不満を感じているのかがわからなくて取り残された気分になる。
もっと口にしてくれないと単純な私にはわからないのに。
ま、今回は私が黙ってバーベキューに参加しようとしていることなんだろうけど。
現にどんどん私の家から離れていく道のりに無言の圧力を感じずにはいられない。今日のドライブは長引きそうだと内心ため息をついた。

*

『骸さん、』
「……」
『骸さんってば!』

しばらく骸さんに付き合って適当なところで切り上げようと思っていたのに街中から外れ郊外の方へ車を進めていく骸さんに気づいて、骸さんのハンドルを握る腕……はさすがに怖かったので太ももに手を置くと一瞬だけ強張った気がした。危ないとはわかっていたが、このまま行けばとんでもないところまで連れていかれそうになっているのはわかる。それは阻止したい。

『早く帰りたいです』
「君は、」

そこで言葉をきって何かを飲み込むように肩で息を吐き、ちょうど通りかかった人気のないパーキングに車を停めた。
ぎっ、と座席に背中を押し付けて骸さんが静かに口を開く。

「そんなに楽しみなんですか?」
『まあ、それなりに』
「異性もいるのに?」
『そこは大丈夫です。みんな気心が知れているし、何より私と骸さんが付き合っていることを知っている人達ですから。変なことにはなりません』

それで安心してくれればと思っていたが、そこはさすがの骸さん。なかなか見逃してくれず食い下がってくる。

「でも酔ったら君はどうなるかわからないじゃないですか…」
『そんなことないですよ』

たぶん。と心の中で付け足して代わりに『信じてください』と口にしてみたが骸さんの表情を見る限り信用は得れなかったようでまた気まずい沈黙の時間がふたりの間に流れる。

『あっ、じゃあ骸さんも参加したらいいじゃないですか!常連だし、みんなも骸さんだったら歓迎すると思うし。聞いてみましょうか?まだ起きてると思うんですけど…』

幹事の顔を思い浮かべながらバックの中からスマホを取り出そうとすると骸さんの手が私の手に重なりぎゅと握りしめて遮られた。

「僕はあまり人の多いところは好みません」
『…毎日うちの店に来といて何言ってるんですか』

駅前で人通りも多い。それに骸さんに話しかける人だってお客さんの中にはいる。それなのに毎日来ていつものあの席に座って私の仕事が終わるのを待っているじゃないか。

「それは君がいるからです」

ちょっと嬉しい。いやでも…

『私だってたまには遊びに行きたいです』
「僕と行けばいいじゃないですか」
『…ふたりだけで?』
「ええ、ふたりだけで」

にこりと笑う骸さんに反して私の眉間にシワが寄っていく。

『楽しくないですよ。ああいうのは大勢で騒ぐのが醍醐味じゃないですか』
「そうでしょうか?ふたりでも君を満足させるくらいのことは出来ると思いますが」
『骸さんが?』
「はい」

海辺ではしゃぐ骸さんの姿が到底想像出来なくて頭を悩ませていると、カチャリと小さくシートベルトが外れる音がした。近くには骸さんの顔があって、あ、キスされる、と思って反射的に目を瞑るとぎゅと抱き締められた。まるで期待していたような自分に恥ずかしくなって顔をあげれずにいると、くすりと笑う声が近くから聞こえてきて余計に恥ずかしさに拍車がかかる。身体を強張らせているとそのまま抱き抱えられてすっぽりと骸さんの膝の上に乗せられた。
骸さんってば見た目に沿わず力持ち…って違う。えっ、私重いんですけど?そんな軽々持ち上げられるような体重ではないはずなんですけど?!
軽くパニックになっているとシートを後ろにずらしたらしくガクンと身体が揺れた。
スペースは少し広がったけど狭いものは狭い。骸さんに預けたままになっていた身体を離そうとしたが、離れる気は無いらしく込められた腕の力の強さに閉口する。

『もー骸さん、ふざけるのは……っ、』

言い終わる前にかぷりと唇を塞がれ舌が捩じ込まれた。とろんと溶けてしまいそうな甘い痺れが脳を襲う。逃れようとしてみてもねっとりとした舌に追いかけられてすぐに閉じ込められてしまう。呼吸もうまくできなくてくらくらとしてきたところであらぬ方へ伸びた骸さんの手にびくりと反応してしまう。

『え、ちょっと…』
「楽しいでしょう?」

クフフと目を細める骸さんの手を払いのけようとしてみたが骸さんも譲る気はないようでするりと洋服の間から侵入してきた手がいつものように肌の上を這い始める。
このまま骸さんのペースに乗せられたらマズイと頭ではわかっているのに拒めきれずにいる自分がどうしようもなく情けなくて。骸さんの指先に翻弄されながらじわりじわりと快楽へとのぼりつめていく。

「僕はとても楽しいですよ」
『……ひどい』

すっかり準備が整ってしまった私を見て可笑しそうに笑う姿が憎たらしい。

「でも困りましたね。君は僕では満足できないらしいので」
『………』

わざとらしく眉を下げてしおらしいことを言っているが骸さんの腹の中なんてわかりきっている。

『骸さん…』
「おや、どうしました?」

恨めしげにじっと見つめてみてものらりくらりと交わすばかりで続きを始めるような素振りもない。

『………』
「ああ、そういえば君は明日の準備があったんですよね。帰りましょうか」

堪えきれずもぞもぞと骸さんのベルトに手を掛けて下着の中から骸さんのモノを取り出してしごいてみても反応は芳しくない。本当にひどい。じわりと膜を張りはじめた瞳を誤魔化すようにぱちりと瞬きをすると、くすんだピンクのスカートがしわくちゃになって捲れ上がっているのにようやく気がついた。
スカートから剥き出しになっている太ももがパーキングに設置されていた街灯の青白い光に照らされ、まるで自分のものではないように白く浮き上がっているのが目に止まる。
その先には男の人のモノに指を絡めてしがみついている自分にぞくりと肌が粟立った。なんてはしたないことをしているんだろう。まるで自分から骸さんを誘っているようなそんな錯覚すら起こしそうになる。
どうして私だけがこんなに必死になっているんだ。元はといえば骸さんから触ってきたのに…。

「どうして欲しいんですか」

悔しい。悔しいのに自分だけでは持て余した熱をどうにも処理出来そうもなくて諦めて骸さんの顔を見上げると面白そうに目を細めて私を眺めていた。

『ね、骸さん。一緒にバーベキューに行きましょう』
「君はみんなと一緒に行くんですよね」

意地悪くそう言う骸さんに腹が立たないわけではないけれど、こちらとしてはそうも言っていられない状況な訳で。

『…骸さんと、ふたりだけで』

仕方なく。本当に仕方なくそう口にすると「まあ、いいでしょう」の言葉と共に腰を持ち上げられてゆっくりと鎮められていく。
ぬぷりぬぷりと肉壁を押し入ってくる感触にそっと目を閉じて、夜の光を閉じ込めたような骸さんのネイビーブルーの髪に顔を埋めて甘くてどこか不思議な香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


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