焼き鳥

私はたぶん六道とえろいことするために生まれてきたんだろなぁ、なんて馬鹿みたいなことを割りと本気で考えている。
高校まではいつも一緒にいた。卒業して進学してからちょっとずつ会える日が少なくなっていった。それは六道もてっきり進学するのかと思っていたのにしなかったから。まあ仕方のないことだと思う。人の事情はそれぞれだし。
何の仕事をしているのかはいまいちよくわからないが六道はいつも忙しそうにしていた。でも長期休みの時には会いに来てくれたし、どこにでも連れていってくれた。
そして私も就活を経て今年から働き始めた。今までとは違う環境に戸惑ったし、覚えなきゃならないことがたくさんあってくたくたになって帰ってくると何もする気にならずそのまま寝てしまうこともあった。
六道もそんななか会いに来てくれてたんだと思うと申し訳ないのもあるが嬉しさの方が勝ってしまう。
まあそんな感じの私なのですが、研修も終えて配属先に割り振られ各々の部署で頑張っている労をお互い労おうと今日は同期の子達と集まったのだがひとしきり上司の愚痴を言い終わった後、話題は色恋の話になり非常に不快な思いをしている真っ最中です。かしこ。

「そういえばなまえちゃんって彼氏とかいるの?」
『うん。いるよ』

ざわりとその場がどよめく。
おう、どういう意味だこのやろう。
彼氏がいるような風貌じゃないってか?!わかってるよ。

「付き合ってどのくらい?」

指を折って数えてみる。

『…7〜8年、くらい?』

更にどよめく皆に首を傾げる。

「え、じゃあ高校の時からずっと?」
『うん。変かな?』
「ううん素敵だと思う」

にっこり笑って素敵だといってくれた子の笑顔は全然素敵だなんて思ってもいなさそうで喧嘩売ってんのかゴラァ状態である。

「高校ってことはもしかして初めての彼氏とか?」
『うん、そうだよ。そのまま続いてるって感じかな』
「えーじゃあ初体験とかもその人なんだ」
『……そうだね』

結構下世話な話もぐいぐいくるなあ。ちょっと苦手かも。

「写真とかある?」
『写真は、ないかなぁ。あんまり撮られるの好きじゃなさそうだし』

こうやって集まればそういった話題が出てくることが今までだって幾度となくあった。しかし首から上がぶれぶれの写真が量産されていくのが虚しくなっていつの頃からか撮るのをやめてしまった。
そのくせ撮られるのは嫌がるくせに撮るのは好きみたいでいつの間にか撮られていた微妙な写真を細かくフォルダ分けされてるのを見つけたときはさすがに引いたけど。

「それって、」
『ん?』
「・・・ごめん、なんでもない」

目配せをはじめた同期のみんなに、またかと内心ため息をついた。

『…言っとくけど脳内彼氏とかじゃないからね』

私の言葉に慌てて繕うように「そんなこと全然思ってないよー」と殊更明るく返事が返ってくるまでがテンプレだ。これ以上この話題を広げまいと他の子の話題を必死に盛り上げはじめた。このくだりは本当に疲れる。
この前行ったどこどこの店のパスタが美味しかっただの旅行先の海が綺麗だっただの他愛もない話が繰り広げられ、すっかり冷えてしまった焼き鳥に手を伸ばす。塩味がきいててしょっぱいなぁなんて思っていたら、電話をかけにいっていた子が慌ただしく戻ってきた。

「ちょっと、今、外ですごくかっこいい人が居たんだけど!」

興奮ぎみに話しだしたその子にみんなの興味は移ったらしくそっと胸を撫で下ろした。こういう話題は未だに慣れない。自分のことになると特に。なんでみんなそんなこと気にするんだろう。今までは気の合う友達だけの狭い世界で生きてたんだなあとつくづく思う。だってそんなこと言うような子はいなかったから。働きだしてから色んな種類の人とふれ合うことが多くなった。六道が昔付き合っていた子達みたいにキラキラした人から私みたいに大雑把な人間まで本当に幅広い。
学生時代だったら絶対話したりはしなかったであろうキラキラした人に分類される子が云うにはどうやらそのかっこいい人とやらはモデルのように背が高くて髪が長くて美形で…その辺りで非常にそわそわしてきて席を立った。なんかすごく心当たりがあるのは気のせいか。でも今日の集まりのことは言っていなかったはず…。

「どこ行くの?」
『トイレ』
「それでね、瞳の色がすごく不思議で」

うっとりと話続ける同期の子が語るかっこいい人と頭の中に思い浮かべた人物がどんどん当てはまっていく。
お店のサンダルを履いてトイレへ向かおうとしたところでぽすりと頭に重みがかかる。一瞬間があいた後、きゃあ!と黄色い声が辺りに響いた。他のお客さん本当にごめんなさい。

「探しましたよ」
『うん。』
「お開きですか?」

ちらりと同期の子達を眺めて、たぶん微笑んだのだろう。なんとも言えない艶かしいため息が背後から聞こえてきた。もうトイレから戻ってまたあの席に座り直す気にもなれない。

『うん』

こくりと頷くとサンダルを脱がされ下足箱からさっと私のパンプスを取り出した。似たような靴が並んでいるのによくピンポイントでわかるなと感心していると鞄が膝の上にぽすんとのった。

「ではお先に失礼しますね」

腕を引かれて立ち上がらせられるとそのままずるずると六道に引きずられて店を後にした。しばらく無言で歩き続けたところであっと小さく呟くと振り向いた六道と目が合った。

『お金…』
「君の分は置いてきました」
『…ありがとう』
「どういたしまして」

それからまた無言になってとぼとぼと六道の後を着いていった。そしてたどり着いた先は…。

『ここ、』
「今日泊まるホテルです。君はまだ実家に住んでいるんでしょう?」
『うん』

家から通勤圏内の場所を選んで就活をしていたため、今でもずっと実家に住んでいた。ご飯とか掃除とか洗濯とかお母さんに甘えっぱなしで、今さら全部ひとりでできる気がしない。
でも六道と会うときはちょっと困るかな。別に隠している訳じゃないし、うちの親も六道と付き合ってることは知っているけど。
だからなのか六道と会うときはいつも六道の泊まるホテルに私の分まで部屋をとってくれている。本当に申し訳ないしありがたい。

『つかれたー』

部屋についてベットに腰掛けそのままぽすんと後ろに倒れる。ふかふかした感触にそのまま目を閉じそうになる。ああ、これは人間をダメにするベットだ。

「お疲れ様です」
『六道もお疲れさま』
「そのまま寝たら服、皺になりますよ」
『んー、』
「こら、不精しないでください」

お母さんみたいな小言を言いながら近付いてくる。ぎしり、と小さくベットが鳴った。でも目を開くにはもう少しだけ時間がかかる。
揺り起こそうとしている六道の手を握ると、ぺろりと唇を舐められた。今日はお酒も飲んだしまだ歯磨きもしていないんだから。やめてと口を開こうとすれば舌が入り込んできてあっという間に絡めとられる。

『…シャワー、浴びたい』
「後でもいいじゃないですか」
『身体、べたべたしてるし』
「一緒に入りますか?」
『……うん』
「おや、今日は素直なんですねえ」
『甘えたい気分なんだよ』

ふかふかのベットに身体を預け落ちてくる瞼を押し上げながらそう言えば「仕方ありませんね」とお風呂のお湯をために行ってくれた。六道だって疲れてるだろうに本当にごめんね。ありがとう。口には出していわないけど。でもちょっとだけ寝せてね。







『私は六道とえろいことするために生まれてきたんだよ』
「クハッ」

変な声をあげてむせた六道を湯船にぷかぷか浮きながらぼんやりと眺めていると本気で頭の心配をされた。どういう意味だ。当然と云うべきか六道がお湯をためにいった後、大人しく寝れるはずもなくばっちり目を覚ましてしまった。

「…今日はどうしたんですか?変なものでも拾い食いしたんですか?」
『さあ、七夕だからじゃない?私も織姫と一緒で六道に会えて嬉しいってことですよ』

不思議そうにしている六道の首に腕を回すと当然のように顔が近付いてきて唇を軽く啄んでくる。 ああやっぱり私は六道とえろいことするために生まれてきたんだと確信した。

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