休日という事も相成って惰眠を貪っていると携帯が鳴った。どうせアラームだろうと思い、切って再び眠りにつく。しかし2度、3度と繰り返されるそれに痺れを切らして電源ボタンを押そうとしたところ、どうやら間違って通話ボタンを押してしまったらしい。
「なんで切るんですか」
不機嫌そうな六道の声が聞こえた。
『アラームだと思ってた』
ふぁ、と欠伸をしながら起き上がる。時計を確認するとまだ10時だ。いつもなら休みの日は昼過ぎまで寝ているというのにこんな早朝(?)に叩き起こすなんてよっぽどの事だろう。じゃなきゃ私の安眠を妨害するだなんて許さない。
『何の用?』
「私の六道さんを盗らないで!」
乾いた音が響いた。じんじん痺れる頬の痛みには覚えがある。
通行人は面白そうにわざわざ足を止めて遠巻きに此方を見ている。ふざけんな。それより何よりいつの間に私は六道を盗った事になっているんだ。ふざけんな。
『誤解です』
「しらばっくれないでよ!」
『いや、ホントに…』
「なまえ!」
10メートル先から駆け寄ってくる六道が目の前の女越しに見えた。ビニール袋を携え私達の元へと到着した六道は、彼女なんて見向きもせず赤くなっているであろう私の頬にそっと触れた。
「可哀想に、こんなに腫らして…。彼女には手を出さないという約束だったでしょう?」
きつく睨む六道の視線に先程までの威勢はどうしたのか急に大人しくなったお姉さん。
「だって、六道さんったら前付き合っていた女の事が忘れられない、だなんて突然言い出すから…」
「迷惑を掛けないという約束でしたが?」
「…っ!ごめん、なさい。でもわたしっ…」
「言い訳は結構です。…行きましょうなまえ」
そのまま口を挟む隙すらなく六道に引きずられてお姉さんの前から連れ出された。
『おい』
「ああ、先日のお詫びでしたね。先に買っておきましたから食べてください」
『あ、ありがとう…って違う!いや肉まんもだけど!』
手渡されたまだ温かいビニール袋をぎゅうと握り締めて、用は済んだとばかりに立ち去ろうとしている六道を呼び止めた。面倒くさそうに「まだ何か?」みたいな顔をして振り返った。ムカつく!
『叩かれた!』
「そうですね」
『痛かった!』
「大丈夫です、口は切れていません」
『死ね!』
「お前が死ね」
ぐっ、口で勝てない…!
『なんで私ばっかりこんな目に遭うの!こんなのあんたといつも一緒にいる子に頼めば良いじゃん!』
「なまえ、丈夫そうですから。それに凪にそんな事頼めませんよ」
『なんで?』
「だって叩かれたら可哀想でしょう?」
私だって十分可哀想だ。朝っぱらから電話で叩き起こされてワケわかんない言い掛かりつけられてその上叩かれて散々だ。なんなの、あ、やばい泣きそう。じわりと目が熱くなってきた。
「それに…」
『?』
「こんな事、凪には出来ませんから」
ゆっくり六道の顔が近づいてきて、ふにっと唇に柔らかいものが触れた。あ、チョコの味だと思った時には六道の伏せられた長い睫毛が見えた。