『むっく!』
「腹立つ言い方はやめなさい」
コンビニから出てきたら自称黒曜中のイケメン、六道骸とばったり会った。
『何してるの?』
「ちょっと待ち合わせを……ああ、貴女どうせ暇でしょう」
可哀想なものを見るような目で見られた。失礼な。
『残念ながら、このホカホカの肉まんを食べるという重大な用事がある』
「暇ですね、暫く付き合いなさい」
『やだよ、肉まん冷めるじゃん』
後で好きなもの何でも買ってあげますから、という甘い誘惑にまんまと乗ってしまった。
『待ち合わせじゃなかったの?』
コンビニの駐車場で待つこと5分。いい加減寒くなってきた。指に息をかけ温めながら問うと六道が掛けていたマフラーを外しクルリと私に巻いてくれた。…温かい。
「呼び出しておいて、遅れるなんて本当にいい度胸をしている」
忌々しそうに眉を歪める。
『私居てもいいの?』
「いいんです、と云うより居てもらったほうが都合がいい」
『ふーん』
良く分からないが何やら考えがあっての事らしい。
『あ、肉まん食べてもいい?』
「……いいですよ」
コンビニのビニール袋から取り出してパクリと若干冷めてしまった肉まんを頬張る。肉汁がじんわり口の中に広がり幸せな気持ちになる。
「美味しいですか?」
『美味しいよ、食べる?』
食べかけの肉まんを差し出すとすごく嫌そうな顔をされた。後で分けてくださいって言ってもあげないからな!
*
「六道くぅん、ごめんね待ったぁ?」
甘えるような甲高い声が聞こえてきて、そちらへ目を向けるとメイクばっちりのきれいな女の子が可愛らしい笑顔を浮かべながら走ってきた。
「六道くん。誰、その子…」
にこやかな笑顔を見せていた彼女は六道の隣にいる私に気がつくと声のトーンを下げ僅かに厳しい目付きに変わる。
そんな彼女の変化に気づくことなく淡々と
「彼女と付き合う事になりまして、貴女とは今日で終わりにしたいんです」
六道の言葉によって元より大きな瞳を更に大きく見開き今にも飛び出してしまうんじゃないかと見ているこちらがハラハラする。
「いやよ、絶対別れない!」
目には涙を浮かべ別れたくないと叫ぶ彼女。道行く人も何事かと振り返っている。
うわー、修羅場だ!てか巻き込まれた…
「大体そんな地味な子、六道くんに似合わないよ」
「どんな地味で貧乳でも彼女が好きなんです」
あれ、貶されてないか私…つーか貧乳は言ってないだろうが!もうちょっとフォローしろよ!
むっとして二人のやり取りを見ていたら、突然肩を引き寄せられ六道の顔が近づいてきた、と思ったら唇に温かなものが触れた。
え?
い、今、六道にちゅーされた!
あわあわと慌てていると怒りを含んだ彼女の声が刺さる。
「…!、私の六道くんをたぶらかさないでよ」
目を吊り上げた元カノが右手を大きく振り上げバチンと頬に衝撃が走った…え、私が、叩かれた…?自覚するとじーんとした痛みが広がってくる。ぽろりと食べかけの肉まんも落としてしまった。
「貴女とはもう会うことはありませんから。行きましょうなまえ!」
骸に肩を抱かれたまま彼女を残してコンビニを後にしたのだった。
*
ファーストキスは肉まんの味でした。
いやいや肉まんの味でした、じゃないだろ!
『ちょっと!』
ギロリと睨むと、肩に回していた手を離した。
「肉まん落ちてしまいましたね」
『肉まんじゃなくて!…いや肉まんもだけど』
何を言ってるんだ私。落ち着け!
『ちゅーした』
「しましたね」
『ふざけんな!』
キョトンとした顔の六道が憎たらしい。
「…ああ、すみません。ちゃんとしたのが良かったんですよね」
『、は?……ふぐ…むぅ…』
やだ、何これ。頭がふにゃふにゃになる。身体に力が入らなくて唇を離された時には六道に必死にしがみついていた。
「ついでに続きもしていきますか?」
笑顔で親指を突き立て背後を指差しながら言う六道の後ろには燦然と輝く「ホテル・愛の巣」の看板が。
……………え?
『だ、誰が六道なんかと!大体私は素敵な彼と夜景の綺麗なスイートルームで初めてを迎えるっていうプランがあるんだから!』
「そうですか、素敵な僕と初めてが出来て良かったですね」
『良くない』
力の入らない身体をよっこいしょ、と荷物のように抱えられて愛の巣へと連れ込まれたのだった。
『いやぁああああ!』
六道なんかに話しかけなきゃ良かった。