ラムネ

私はうだるような暑さの中、キンキンに冷えたラムネを駄菓子屋で購入して店の前で飲むのが好きだ。しゅわっとした炭酸ののど越しに気分爽快!火照った体もクールダウン。まさに一石二鳥だ。最近のコンビニで売ってある缶ラムネなんて邪道だ。冬のコンビニ肉まんは確かに愛してるが、夏の駄菓子屋の瓶ラムネはもはや別次元の産物だ。愛してるだけでは到底語り尽くせやしない。

だから私は目の前で立ちはだかる六道を押し退けて今日も駄菓子屋のおばちゃんに『ラムネ!』と声を掛け小銭と引き換えに冷えたラムネを手に入れた。ビニールを剥いでポンッと小気味いい音のあとカランとビー玉が瓶の中で揺れる。

「おやおや、挨拶もなしですか」
『ふぃいい…!やっぱ夏はラムネに限るなぁああ!よし生き返った!この勢いでさくさく帰るか!』

瓶の中のビー玉に多少心残りはあるものの空き瓶のケースに置いていざ帰るべしと再び炎天下の中に飛び出そうとした。

「ガリガリ君好きですか?君もひとついかがです?」
『ああもうちょう好き!六道も今帰り?』
「ちゃんと聞こえてるんじゃないですか」

こつん、と頭を軽く小突かれた。

「一応聞きますが、今から予定はありますか?」
『うん。家に帰って氷たっぷりの特濃桃カルピスを飲むという非常極まりない用事がある!』

胸を張ってそう答えると「暇ですね」とアイスの袋を渡してくる。

『だから暇じゃないんだって!』

受け取ったガリガリ君の袋をビリッと破いて一口かじる。ひんやりと口の中が一気に冷えた。ん〜幸せ!

「食べましたね」
『ん?』
「ちょっと付き合いなさい」
『は?』

首根っこを掴まれて引きずられながら駄菓子屋を後にした。

やっぱりと言うべきか最早すっかり恒例となった修羅場タイムに絶賛巻き込まれ中だ。そろそろ話も終盤を迎え、ガリガリ君も残すところあと一口になった。最後の一口を大事にかじって木の棒を燃えるゴミへ投げ捨てた。よし、駄賃のアイス分はここに居たんだし退散するか。そろりそろりと気配を消して二人の視界から流れるようにフェイドアウト。ふふふ、後は自力で何とかしたまえ六道君。と心の中で呟いて家の方向へ一歩踏み出した時だ。ぐっと肩を掴まれて(痛っ…!つ、爪が食い込んでる……)くるりと華麗にターンをさせられた。私は踊り子じゃない。

「こんな女なんかに…!」

振り返った先にはぐわっと目が裂けてしまうんじゃないかと思うくらい大きく開いて女の子が睨んでいた。なんでいつも六道の付き合う女の子はバイオレンスなんだ。そして恒例通り振り上げられた右手を咄嗟に両手で挟んだ。ふっはっは。そう何度も易々と叩かれてやると思うなよ!人とはちゃんと学習する生き物なのさ。白刃取りの構えのまま六道の元カノに勝ち誇って余裕綽々でいたら右頬に痛みが走った。しまった。左手はノーマークだった。うぅ…、長く伸びた爪が頬を掠って痛い。だからなんでどいつもこいつも私を叩くんだ。
痛みで泣きそうになっていた時に、後ろから六道が声を掛けてくる。つーかもうちょい早く止めて頂きたい。具体的にいうならば私が叩かれる前とか。

「…もういいでしょう」
「待って骸くん!」
「君にはつきあってられません。行きましょうなまえ」

元カノを残してすたすた歩き出した六道に腕を引かれて転びそうになりながらついていった。

『……今日はいけると思ったんだけどなぁ』
「馬鹿言ってないで、ほら見せなさい」

ぐっとアゴを掴んで上を向かされた。

「ちょっと傷になってしまいましたね」
『んー。大丈夫』

本当はまだじんじんしてて痛いんだけど申し訳なさそうな六道の顔を見てたら言い出せなくなっていた。私って優しー。
黙ったまま見つめあっているとふ、と六道の目が緩んでちゅと口に触れてきた。あ、今日はラムネの味だ。人目も憚らずちゅうちゅうしていたら最後に思いっきり舌を吸われて離れた。

「君はキスは嫌がらないんですね」
『六道のちゅーは気持ちいいからね』
「だったらそろそろ続きもさせなさい。もっと気持ちいいですよ」
『やだ、まだ中学生だもん』
「なんですか、それ」
『中学生はちゅーまでって決まってるの』

そう言って六道の胸を押して腕の中から抜け出した。そして六道を振り返ることなく家までの道のりを駆け出しながら帰ったら特濃桃カルピスが待っていると繰り返し足取り軽く走っていった。




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