大事な夢の話をしよう

そうです夢です。つまり君と僕の大切な将来の話ですね。え、先生は関係ないって?いえいえありますあります大有りです。だってこれから受験なんてものも控えていますがもし受かってしまった場合、君は大学デビューを目論む欲にまみれた野獣の中に放り込まれた哀れな子羊になりかねません。新歓コンパなんてもっての他です。未成年である君に無理に酒を勧めてくる不届き者がいます。これは絶対です。間違いありません。甘い言葉で誘いだし純粋無垢な君を酒に溺れさせ前後不覚になったところを介抱という名のお持ち帰りをして手籠めに…ああ想像しただけで羨まし……いえ腸が煮えくり返りそうです。いっそのことそんな不埒なことをする輩の腸を引きずり出してやりたいくらいです。そんな危険性を考慮すると、どうでしょうここはひとつ女子大なんかにしてみては。ああ、でもやれ合コンだ文化祭だで興味のかけらもないのに心優しい君を友情とかいう不確かな関係性で引っ張りこもうとする友人も現れるかもしれませんねぇ。どうしても断りきれなくて参加せざえるを得ない状況になった場合は先生に連絡してください。先生がなんとかします。え、卒業してから先生にそこまで迷惑を掛けるなんて気が引ける、だなんて…なんて気遣いのできる良い子なんでしょう…!感動しました。先生君のそういうところすごく素敵だと思います。いいんですよ。他でもない君のことですから。それともし、仮に…なんですが、万が一君が受験に失敗してしまった場合……非常に残念なことですがその可能性も今の君の実力では否定できません。むしろ先生的にはそれを一番望むのですが…ああこちらの話です。気にしないでください。話が脱線してしまいましたね。ええっと、ドレスのお色直しの回数の話でしたっけ?ああ、違いました。すみません先生どうやら先走ってしまったみたいです。そうでしたそうでした失敗した場合ですね。その場合ももちろん先生に報告してください。あまり思いつめてはいけませんよ。その時はこの学習塾を代表して僕が責任を取りますから、どんと当たって砕けてきてください。これから一年、一丸となってふたりの将来の為に頑張りましょうね!

机の上に置かれたなまえさんの手を取り団結の意味も込めてぎゅっと握りしめた。
しかしなまえさんの表情はどうも冴えない。将来に対する不安からだろうか。

『あの、話が長くてよくわかりません』
「すみません、先生つい気合いが入って喋り過ぎましたね。他でもない君のことですから熱くなってしまいました」
『うーん実は進学するかもまだ決めてないんですよね…それに、出来れば早くお嫁さんになりたいんです!!』
「…!ええ、雲雀先生から話は聞いています。でも先生は将来君が家庭に入ったときにあの時進学の道を選んでいたら…せめて受験しておけば良かった、なんて後から後悔して欲しくないんです」

握りしめていた手につい力が入りすぎたのか『痛いです』と眉をしかめつつそろそろと引き抜こうとしている。そして既に椅子から腰を浮かそうとしているではないか。

「ああ、そうそう。先日百貨店へ行ったら美味しいチョコレートがありましてね、君もひとついかがですか?疲れているときは甘いものが欲しくなりますし」

机の端に置いていた紙袋からチョコレートの入った箱を取り出すと『あっ!』と短く感嘆の声をあげた。

『それ知ってます!私も色違いのやつ買いました。紅茶のチョコレートで美味しかったですよね!お揃いですね!』

再び椅子へ座り直してキラキラした眼差しを一身にチョコレートの箱に向けている。いつかその視線を僕の息子へと向けて欲しいものです。不埒なことを考えつつ薄い箱の蓋をスライドさせると中から現れたのは紅茶の包装を模した包みが並べられていた。

「味見してみますか?」
『いいんですか?』
「もちろん」

目を忙しなく動かしどれにしようかと悩む素振りが可愛らしい。
ひとつ手に取り包装を開けているとつられて顔をあげる仕草に思わず口元が綻ぶ。

「僕はこれがおすすめです」

1枚取り出しなまえさんへ差し出せば、そのまま僕の手からぱくりと口に含みもぐもぐと咀嚼を始めた。

『美味しいです』

ふにゃりと顔を緩めて口の中のチョコレートの余韻を楽しんでいるように見える。

『ごちそうさまでした』

音をたてて元気よく椅子から立ち上がり駆け出していくなまえさんを見送りながら、口に含む際指先に触れたなまえさんの柔らかな唇の感触に先生の息子も元気よく勃ち上がりました。

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